「ZOZO買収」後の世界を読む ヤフーも楽天もリアル店舗買収に進むこれだけの理由
ヤフーが小売業への投資を本格化させている。巨額の資金を投入してZOZOを買収し、PayPayの浸透を図り、PayPayモールを本格稼働させた。ヤフーのこれから取りうる戦略、そして、楽天、Amazonとの闘いの未来図について、解説しよう。
繰り広げられる2大国家による地上戦
数年前にできた言葉に「イオニスト」がある。これは、特に地方で、居住地の周りにイオングループの店舗があり、まさに、「ゆりかごから墓場」まで、イオンにお世話になる人達をいう。例えば、子供が産まれればイオンモールやイオンの総合スーパーで子供服を買い、入学式にはランドセルや自転車を買う。日々の食品は、マックスバリュやミニストップで買って、銀行の口座はもちろんイオン銀行。日々のお金はWAONをつかい、住宅購入はイオン銀行で住宅ローンを組む、そして終活として「イオンのお葬式」にお世話になるという具合だ。
このような、「ゆりかごから墓場まで」という顧客の生涯価値 (Life time value) の囲い込みは、セブン&アイ・ホールディングスも同じようなエンティティ(独立法人会社)をもっており、赤ちゃん本舗からはじまり、儲け頭のセブンイレブンを筆頭に、スーパーのイト―ヨーカ堂、百貨店のそごう・西武、そして、セブン銀行による金融サービスとnanacoというグループ貨幣を保有している。
イオン国、セブン国の弱点は空中戦=EC
彼ら巨大流通企業の戦略は、まさに「小国家」を作り上げているように見える。足りないのは「学校」や「病院」、「軍備」ぐらいで、イオン国、セブン国には、物販という領域においては、各地で「雇用」を生み出すとともに、「貨幣」、「医薬品」を含めたほぼ全てのものが揃っている。
しかし、この二大巨大企業の最大の弱点は、空中戦(インターネット(Eコマース)だ。セブン&アイ・ホールディングスはニッセンを買収しomni7を立ち上げるが存在感はないし、イオンに至ってはネットの存在を知っている人さえ少ない。
これは、長らく地上戦(リアル店舗)で勝負をしてきた企業の宿命とも言える結果だ。そして残念ながら、多くのリアル店舗小売企業が、ネットという世界と戦略を正しく理解していないのは、過去の私の論考でも詳しく解説した(ヤフー「ZOZO買収」を読む、孫正義社長は“焼け野原”ZOZOを「楽天型総合サイト」に変える!)。
2019年度の経済産業省の統計によれば、日本の全産業のEC化率は6%程度だが、その成長率(=リアル店舗からのチャネル変化の度合いを示す)は8-9%である。これは、中国の15%、米国の10%と比較して、まだまだ少なく、また、筆者の予測では近い将来30%近くになることは必至だ。最終的にはリアルとネットの比率は50%/50%程度となり、ネットとリアルの境目は生滅する。これがいわゆる「オムニチャネル」という状態で、そのスピードや度合いをさておけば、消費がこのように進むことに、異論を唱える人はいないだろう。そして、日本を代表するイオングループとセブン&アイ・ホールディングスに、そうした動きは今のところ見えてこない。