リアル店舗が勝ち残る方法は「エンタメ化」か「ダークストア化」?その戦略を解説

解説:松本 渉(ローランド・ベルガー パートナー)、今井 哲(ローランド・ベルガーコンサルタント)
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iStock/B4LLS

五感訴求も「オンラインシフト」

 経済産業省によると、食品、生活雑貨、衣類など物販BtoCのEC市場規模は2023年に14兆6000億円にも上り、EC化率は9.4%であった。10年前の1 4 年にE C 化率が4.4%だったことを踏まえると、EC市場の堅調な拡大ぶりがわかる。このようにECが台頭するなか、今後のリアル店舗に求められる役割・機能について今回は考えたい。

 従来、小売企業はリアル店舗において、同じような価値観を持った“マス消費者”に対し、標準化されたオペレーションで汎用性の高い商品を展開していた。消費者は店舗で実際に商品を手に取り、五感でイメージを感じ取ったうえで商品を購入してきた。

 これは、もともとはリアル店舗でしか体験できない価値であったが、デジタル技術の発展により、オンラインでも提供できるようになりつつある。そのためリアル店舗は、オンライン購買に伴う在庫拠点である「ダークストア」、またはサービス提供を通じて新たな収益を創出する「エンタメ店舗」に分かれると予測する(図表は有料記事にて表示有り)。

リアル店舗の在り方の変化 出所:ローランド・ベルガー作成

 具体的には、VR(仮想現実)・AR(拡張現実)、センシング(感知機能)などの技術の進化を受け、将来的にはリアル店舗と変わらない「五感を駆使した購買体験」が仮想空間でも実現される可能性がある。検索、商品確認、注文というECの購買プロセスのなかで、たとえばアマゾンはすでに検索と商品確認においてデジタル技術の活用を進めている。

 検索では、AIを活用することで購買・閲覧履歴を分析し、検索ページにおける商品レコメンドをカスタマイズする。商品確認では仏化粧品大手のロレアルと協力し、AR技術を活用。各アイテムでメークするとどのような仕上がりになるかを、自身の顔を画面上に写したうえでイメージを確認できる。

 また、AI 、メタバース、五感センシング技術の近年の発展に鑑みると、たとえば検索では自宅の在庫状況や個人の健康データをもとにした商品提案も可能になるだろう。

 さらには感触、味、香りなどの情報を、オンラインを介して得られるようになる日も遠くないかもしれない。「ZARA」を展開するスペインのインディテックス(Inditex)はメタバース空間でバーチャルファッションショーを開催するほか、明治大学が舌を電気刺激によって五味(甘味、塩味、酸味、苦味、うま味)を再現する「味ディスプレイ」を開発しているといった動きがある。

 こうした技術や取り組みにより、もはや“五感”はリアル店舗だけの価値ではなく、オンラインにも移行し得るものになっている。

接客機能を排した「ダークストア」化の流れ

 消費者がリアル店舗と同様の購買体験をオンラインで完結できてしまう場合、時短や買物負担軽減といったニーズから、リアル店舗に労力をかけ出向くことは少なくなる。すると、

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