今、小売業が新しいフォーマットを作らなければならない理由

日本リテイリングセンター シニア・コンサルタント:桜井多恵子
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同質化から脱却する

 日本の小売業フォーマットづくりはグランドデザインが不明確である。最初にめざしたものはあったはずだが、いつの間にか売れる品種を増やし、代わりに売れない品種を排除していった。売場面積が増えれば扱う品種の中で重複品目が増えてゆくだけで、新たな品種を拡大する努力はしてこなかった。

 同時に、売れ筋ベーシックアイテムの品質の革新が遅れた。そのままでも売れるから改善・改革は不要と考えたのだろう。

 次の内容は、あるアメリカのチェーンストアの本部訪問時にトップマネジメントから聞いた話だ。「売れている商品こそ、よりよい取引先を探し続け、材料を選び直し、お客の使い勝手の研究を継続すべきだ。バイヤーはその研究と新商品の調達に時間をかけねばならない。品質の改善なしに価格競争に終始すれば正当な努力を重ねた企業にある日突然負けることになる」。

 結果は先に述べたように、どのフォーマットも同じような食品と高購買頻度の非食消耗品を扱い、同一フォーマット内の異企業同士が同質化するだけでなく、異フォーマットの商品部門構成も同質化している。多少の面積の違いはあっても品揃えの中身に大差はないのだ。そのため、フォーマットの特徴が出せず、品目の安さだけがお客の評価の対象になるのである。

 先に述べたように今のフォーマットは、ねらう用途や、立地条件、売場面積、商品部門構成、価格帯など、フォーマットの構成要素は今後の発展計画に基づいて決められたものではない。30年、40年と長年の間、その時々に入手しやすい立地条件に合わせて売場面積を決め、商品部門構成は最大限に拡大したまま品種単位で足したり引いたり、景気動向で価格帯を変化させたりということを続けてきた結果である。だから行き詰まったと考えるべきである。

 したがって今こそ、今後20年間の企業発展の原動力となりうる経営戦略に転換し、その乗り物となるフォーマットを確定すべきだ。まずは既存フォーマットを再編し、新フォーマット開拓が続かねばならない。

 本連載ではそんな新しい経営戦略の主軸となるフォーマットの構成要素、再構築の着眼点、再編の手順、過去の失敗例、先進事例など具体的な内容を、順を追って解説してゆく。

 新型コロナウイルスのパンデミックの影響がプラスに、またはマイナスに作用したフォーマットがそれぞれあるが、ともに感染拡大が終息したとしても消費者の購買傾向が元戻りになることはない。戻ったところでオーバーストア問題は解決しないのだから、今こそ経営戦略を大転換すべき時である。

 まずチェーンストア経営システムとそこに乗せるフォーマットについて真摯に学ぶことが先である。

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