今、小売業が新しいフォーマットを作らなければならない理由

日本リテイリングセンター シニア・コンサルタント:桜井多恵子
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坪当たり売上高は減少の一途

 表の右端の1店当たり人口は、各フォーマットの年商50億円以上の企業の総店数で、日本の人口を割り算したものだ。日本型スーパーストアは7.4万人で必要商圏人口の半分しかない。だから食品売場だけが繁盛する。2階や3階の非食品売場は10万~15万人必要なはずで客数不足のために売上高が減る一方である。

 また、100円ショップなどのバラエティストアは1.6万人でこれも半分、DgSは7300人、SMに至っては表上欄外の「※2」でわかるように7390人にしかならない。これらは必要商圏人口の3分の1に満たないのだ。

 大手による寡占化が明白なコンビニエンスストア(CVS)は1店2100人にしかならないから、中規模のみならず大手も不採算店を閉店している。海外出店対策を強化しているのはそのためだ。

 ほかも同様に、ホームセンターは大型店が主力なのに3万人弱、必要商圏人口の3分の1である。表の半分から下に連なる各種専門フォーマットも多店化の余地があるフォーマットは皆無といってよいくらいである。

 その結果、売場1坪当たり売上高、つまり売場販売効率は下降の一途を辿っている。衣料スーパーは78万円、紳士服専門店チェーンは81万円、ホームセンターは75万円と、利益を出すにはぎりぎりの線である。

 SMだけは365万円とアメリカの大手SM企業の1.5倍ほどと高いのだが、次の項目の従業者1人当たり粗利益高、つまり労働生産性が696万円でアメリカの半分しかない。人海戦術で高い売上高を支えているのだが、利益が出せないから従業者の賃金水準は低いままである。

 フォーマットごとに革新企業が出現しないまま長い間同質競合が継続し、全体の数値が悪化していることになる。これでわかることは、日本の小売業界は熾烈なフォーマットと企業の淘汰期に突入していることだ。同質競合の結果、フォーマットそのものが疲弊し、寿命を迎え、この表の行ごと消え去るフォーマットも今後出てくることになる。つまりフォーマット間競争が激化しているのである。

 SMもCVSもDgSはもちろん、今や食品主力になった日本型スーパーストアも、100円ショップやHCさえも食品を扱っている。客層が広く購買頻度が高いため、扱えば売れるからだ。そこにネットスーパーが割り込み、新たな業態の便利さでお客の支持を獲得し始めている。

 客層が広い高購買頻度品、つまりベーシックアイテムの取り合い、これが現状のフォーマット間競争の本質である。そこには価格競争しかないのだ。本来のチェーンストアの使命である生活者の暮らし向上をめざす生活提案商品は残念ながら介在しないのである。

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