コラム:増税目前、不正統計が専門家に問う景気分析力=嶋津洋樹氏

2019/01/31 18:00
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12月のスーパー販売額
日本の景気はおおむね緩やかに回復を続け、労働市場は改善しており、物価が持続的に下落するという意味でのデフレもほぼ解消した。写真は千葉で2014年2月撮影(2019年 ロイター/Yuya Shino)

10月の消費増税は最悪のタイミング

また、今回の景気回復を政府が作り出した「政策頼み」と称し、批判的に評価する報道や専門家のコメントも目立つ。そもそも、「政策頼み」は8月の本コラム「日銀の枠組み強化でアベノミクスは『風前の灯』」で触れた通り、2014年4月の消費増税と2018年7月の日銀による「強力な金融緩和継続のための枠組み強化」で、すでに形骸化している。

 

 国内景気は筆者が予想した通り足踏み状態で、後退局面入りが視野に入り始めた。まさにマクロ経済政策の不適切な組み合わせが、景気回復は「戦後最長となった可能性」を危うくしている。

 

 筆者の見通しが正しければ、今年10月の消費増税は最悪のタイミングで実施されることになる。景気がいったん悪化すれば、デフレ脱却に向けたこれまでの努力は元の木阿弥(もくあみ)になりかねない。人員削減や給与カット、企業倒産という憂き目にあう人も増えるだろう。

 

 「政策頼み」の景気回復についても、筆者からすれば、政府が金融や財政などマクロ経済政策を適切に組み合わせること、その結果として景気回復が長期化することは当然であり、褒められこそすれ、批判されるものではない。

 

 もちろん、そうした政策が極端なインフレやデフレ、景気の大きな振幅、失業などをもたらせば問題だが、日本の景気はおおむね緩やかに回復を続け、労働市場は改善しており、物価が持続的に下落するという意味でのデフレもほぼ解消した。

増税対策の効果は未知数

確かに、消費者物価は依然として日銀が物価安定の目標として掲げる2%を大幅に下回っている。日本経済に最も必要とされる生産性向上や、そのための構造改革も道半ばと言えるだろう。しかし、それには地道な努力が必要で、時に痛みを伴うことが知られている。日本経済が全体として過剰な雇用を抱える中で、企業が生産性向上のためと称して急激に人員削減や給与カットに踏み切れば、多くの人々は路頭に迷うだろう。企業そのものが倒産という憂き目にあう可能性さえある。

 

 政府は10月の消費増税に向けて万全の対策を強調するが、2014年4月の前回を振り返るまでもなく、その効果は未知数だ。今夏に発生した自然災害で復旧・復興事業が増える見込みにもかかわらず、公共工事の発注動向を集計した国土交通省の建設総合統計などによると、公共投資の減少には歯止めがかかっていない。

 

 冒頭で述べた通り、今回判明した経済統計の不正処理は、経済運営にとって不可欠な「景気動向の正確な把握」に支障を来しかねない重大な出来事だ。同時に、主な利用者である専門家がデータをしっかりと理解し、正確な分析を心掛けないと、適切な経済運営が行われているかどうかをチェックするための材料を世の中に発信できない。結果として、国の経済と国民の生活を疲弊させかねない。

(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

*嶋津洋樹氏は、1998年に三和銀行へ入行後、シンクタンク、証券会社へ出向。その後、みずほ証券、BNPパリバアセットマネジメントなどを経て2016年より現職。エコノミスト、ストラテジスト、ポートフォリオマネジャーとしての経験を活かし、経済、金融市場、政治の分析に携わる。共著に「アベノミクスは進化する」(中央経済社)

(編集:久保信博)

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