「Green Beans」を興すイオンのデジタル戦略に見る、ビッグリテールのDX未来予想図

山中 理惠 (Rokt 日本代表)
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小売のプロとテクノロジーのプロがタッグ

 イオンのDX戦略で象徴的な取り組みの1つが、2019年に行った英ネットスーパー企業Ocado group plc(オカド:以下、Ocado)との戦略的パートナーシップ提携です。この提携は、ネットスーパーの根源的な課題に取り組むための大きな足がかりでした。世界的にもデジタル化が進んでいる企業を買収することで、ネットスーパーの根本的な課題に早期に取り組むことができ、解決方針を見出すことができたのです。

 ネットスーパーを運営する際の課題は、フルフィルメント(受注~アフターフォローまでの一連のプロセス)にあります。これまでは店内でのピッキングに頼っていてスケールが難しいことがボトルネックになっていました。

 そこでイオンが打ち出したのが、Green Beansの拠点である「イオンネクストCFC(顧客フルフィルメントセンター)」でした。2020年には、「イオンネクスト誉田CFC」(千葉市)構想を発表し、Ocado SolutionsAIやピッキングロボットなどのソリューションを活用した配送センターとして、2021年に起工にこぎつけています。

 このCFCはイオンのデジタル戦略の要です。Ocadoのピッキングロボットやコンテナなどを活用し、ネットスーパーの大型自動倉庫および配送センターとして24時間稼働します。CFCをハブ(中心拠点)として、ネットスーバー事業で2030年までに6000億円の売上をめざすとしています。

 CFCはリテールの業務知識とDXの専門性、両方を持つチーム・人材を社内に有することで実現できたといえます。イオンのデジタル戦略で特徴的なのは、データエンジニアやデータアナリストをはじめとするデジタル人材をグループ内で直接雇用していることです。それらの人材を外部に頼っていたのでは、時流に乗り遅れてしまいます。

 こうした「エンジニアリングの内製化」は、昨今の小売業界全体でよく見られる動向です。たとえばベイシア(群馬県)グループや、トライアルホールディングス(福岡県)でも社内にエンジニアを擁し、「攻め」の姿勢でデジタル戦略の差別化を加速させています。

 中でもイオンは、2016年頃からいち早くDX関連のプロジェクトを立ち上げていたと言います。2019年にはイオンネクストという「次世代ネットスーパー事業」を具現化するデジタル戦略の準備組織を設立しています。このイオンネクストで注目したいのは小売のプロとテクノロジーのプロがタッグを組んでいる点です。CEOにはグローバルの小売で活躍してきたバラット・ルパーニ氏が、CTOにはGoogleや楽天を経てグルメクチコミアプリ「Retty」で同職を務めた樽石将人氏が就任しています。

 優秀なエンジニアの採用は難しいといわれる昨今、「事業会社の大規模なトランスフォーメーションに直接関われる」ことをアピールし、デジタル人材の採用に力を入れるのも一つの手です。リテールテックで業態転換を実現しようと思うなら、組織構造にも目を向け、これからの事業拡大に共感するデジタル人材を引き入れる必要があるといえるのです。

 

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記事執筆者

山中 理惠 / Rokt 日本代表
グローバルITベンダー、大手コンサルティングファームを経て、複数のスタートアップ企業のGTMやマーケティング戦略に携わる。その後、ITからいわゆるDXにフォーカスを絞り、デジタルマーケティングの初期からSEMやソーシャルメディアの拡大に関わる。2018年から、Rokt(ロクト)の日本代表として国内市場立ち上げと拡大を担う。
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