カインズ、ニトリ、カスミ…DX先進企業に共通すること、DXの進め方とは

小野 貴之 (ダイヤモンド・チェーンストアオンライン 副編集長)
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過熱するIT人材獲得競争

 まさにメリットだらけの「内製化」だが、最も懸念されるのがIT人材にかかる人件費コストの問題だ。求人情報・転職サイト大手の「doda」が公表している、最新の業種分類別の平均年収(手取りではなく支給額)は、「IT/通信」が436万円、対する「小売/外食」が351万円と80万円以上の開きがある。高度なIT人材であれば、その給与は“青天井”であり、他業種との奪い合いにもなる。

 小売業界の給与モデルは当然、小売ビジネスを想定したものとなっている。IT人材を採用するためには、既存の人事・給与制度とは異なる新たな制度を設ける必要がある。そうしたなか、DX先進企業と言われる企業の多くは、IT人材に合わせた給与モデルや働きやすい環境を備えた子会社をグループ内に立ち上げ、IT人材を積極的に採用しようとしている。

 たとえば、カインズはIT人材の受け皿となるIT子会社を設立。20年1月にはデジタルの拠点「CAINZ INNOVATIONHUB(カインズ・イノベーション・ハブ)」を東京・表参道に開設した。「2032年にIT人材1000人体制」という壮大な目標を掲げるニトリも22年4月にIT子会社のニトリデジタルベースを設立。そのほかにも、家電量販店大手のビックカメラ(東京都/秋保徹社長)がIT子会社ビックデジタルファームを22年9月に立ち上げ、ITエンジニアを数百人規模で採用することを明らかにしている。

 少し古い出典になるが、経済産業省は30年に最大で約79万人のIT人材が不足する可能性があると公表している。IT人材の獲得は全産業共通の課題であり、IT人材の獲得競争が今後激化するのは必至だ。

 そうした背景にもあって、内製化を進める企業とそうでない企業の格差は、今後いっそう拡大していくとみられる。

 これまでのDXの議論では「何を目的にDXを推進するのか」「DXで何を実現するのか」が重要視され、「自社のめざすものが(DXとは)別のところにあるのであれば、無理にDXをする必要はない」という意見もあった。しかし、小売を取り巻く環境は厳しさを増しており、「デジタルの力を使わない」という選択肢はもうほとんど残されてない。小売業はDXとどう向き合い、どのようにDXを進めていけばいいのか。そのヒントが本特集には散りばめられているはずだ。

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記事執筆者

小野 貴之 / ダイヤモンド・チェーンストアオンライン 副編集長

静岡県榛原郡吉田町出身。インターネット広告の営業、建設・土木系の業界紙記者などを経て、2016年1月にダイヤモンド・リテイルメディア(旧ダイヤモンド・フリードマン社)入社。「ダイヤモンド・チェーンストア」編集部に所属し、小売企業全般を取材。とくに興味がある分野は、EC、ネットスーパー、M&A、決算分析、ペイメント、SDGsなど。趣味は飲酒とSF小説、カメラ

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