マニュアルのない災害支援 ユニクロヨーロッパでの避難民支援とコロナ対応
日本以上にサステナビリティ活動が盛んなヨーロッパのユニクロでは、災害支援においてどのような活動をしているのだろうか。トルコ地震のような自然災害の被災者支援、また、ウクライナやシリアからの難民支援、そして2020年以降は新型コロナウィルス感染症には、どのように対処してきたのか。ヨーロッパでのサステナビリティ活動のキーパーソン、UNIQLO EUROPE LIMITEDのサステナビリティ責任者であり、現在ファーストリテイリング環境マネジメントチームも兼務しているマリア・サモト・レドゥ氏(以下、レドゥ氏)に取材した。
服が格差や不平等をもたらす現実
レドゥ氏は、2012年にロンドンでユニクロに入社した。コペンハーゲンに生まれ育ち、子供の頃から環境問題、社会的平等について学ぶ機会が多かった。コペンハーゲン大学に進み、交換留学で1年間、日本の早稲田大学で学んだ経験もある。その後、ロンドンのSOAAS(School of Asian African)大学で修士号を取得、外務省から奨学金を得て、第三国でドキュメンタリーフィルムを制作していたという、異例の経歴の持ち主だ。
撮影で訪れた中央アフリカで、ある村に滞在していたとき、学校に着ていく 制服がないために学校に通えないという子供たちがいることを知った。自分は当たり前に服を着ることのできる環境にいたので、それまで考えたこともなかったが、服というものが不平等や格差をもたらすという現実に直面し、ショックを受けたという。
「服で世界を良くする」という考え方に共感
ロンドンの大学に戻ってきた頃、リクルーティングセッションのために、ユニクロ ヨーロッパの人事責任者とエリアマネージャーが大学にやって来た。彼らの話を聞いて、「服で世界を良くする」というユニクロの考え方に共感し、このような企業の中で働けば、個人で何か活動するよりも早く大きな影響力を世の中に発揮するチャンスがあると考えて、入社した。
「実は私は、子供の頃に母方の親戚の住む日本の熊本県で、ユニクロの店舗を見て知っていました。その店舗は九州の典型的なロードサイドストアでした。その後、ロンドンの大学で学んでいるときに、ちょうどロンドンやパリにユニクロのグローバル旗艦店ができ、その変化と進化に驚いて注目していたのです」(レドゥ氏)
ユニクロに入社してからは、まず店舗スタッフとして店舗運営を学んだ。1年後、ユニクロが初めてドイツに新店をオープンすることになり、レドゥ氏はその店長としてベルリンに移った。
「入社当初から、いつか新店の立ち上げに携わりたいと考えていたんです。2012年には、EUではユニクロはUKとフランスにしかなく、ドイツは3つ目の市場参入でした」
その後5年間、ドイツで店長やエリアマネージャーを努めた。
シリア難民への支援を通して
レドゥ氏がドイツに移って3年目の2015年、シリアでの内戦が深刻化し、翌年1年間で100万人のシリア難民がドイツに避難してくる事態となった。ベルリンにも200以上の緊急難民キャンプができ、レドゥ氏が店長を勤めていたユニクロの店舗の近くにも難民キャンプができた。何もしないわけにはいかなかった。当時、店舗運営を通じて地域コミュニティとつながりがあり、近隣のチャリティー団体とも交流があったので、まずは難民キャンプに住む人たちに、ユニクロの服を寄付することから始めた。
しかし、避難民が長い間ドイツにとどまることになるのは目に見えていた。次第に、長期的な支援をしないといけないと考えるようになり、店舗スタッフに難民を積極的に採用するようになった。
「当時採用したシリアからの難民の一人、アブドゥールさんは、その後ベルリンの旗艦店でSV(スーパーバイザー)として活躍しています。一緒に日本に出張してコンベンションに出席し、全世界のファーストリテイリンググループ社員の前でスピーチする機会もありました。いわれなく国を追われ、何の補償も、住むところさえなかった人が、自分の力でキャリアを形成し、生活の質を上げ、人生を楽しむことができている。自分がその手助けをできたことは、何よりも嬉しいですし、彼らのことを誇らしく思います」
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