知られざるデジマの達人・フランスのコスメ専門チェーン「セフォラ」の戦略を知っておくべき理由

伴 大二郎 (株式会社ヤプリ エグゼクティブ・スペシャリスト/株式会社顧客時間 プロジェクトマネージャー/db-lab代表)
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本連載第1回は「アマゾン・ブックス(Amazon Books)」の本質をデジタルマーケティングの観点で解説した。2回目の今回は、店頭、ポイントプログラム、ウェブ上のコミュニティ、インフルエンサーなどさまざまな接点やチャネルから得た顧客データを活用し、コロナ禍でも自社ビジネスを成長させている好例として、フランスのコスメ専門チェーン、セフォラ(SEPHORA)の事例と戦略を紹介する。日本には店舗を持たないが、ビジネス関連の記事などでよく取り扱われておりご存じの方も多いかもしれない。同社の取り組みは日本の小売業にとっても多くの示唆を与えてくれるはずだ。

 

日本からは20年前に撤退も……グローバル市場で勇躍するセフォラとは?

米国のセフォラの店舗(筆者撮影)
米国のセフォラの店舗(筆者撮影)

 セフォラは1970年にフランス・パリで創業し、1997年に「ルイ・ヴィトン」「ディオール」「ロエベ」などのブランドを擁するLVMHの傘下となったコスメ専門店チェーンだ。LVMHグループに属してはいるものの、グループ外のブランドも多く扱っているのが特徴で、98年にアメリカに進出したのをきっかけにグローバル展開を開始、現在は27カ国に1300を超える店舗を有している。

 ちなみに日本にも米国進出の翌年(99年)に上陸、東京・銀座の路面店を皮切りに一時は7店舗を展開していたが、業績不振により2001年に撤退している。

 筆者は創業の地フランスをはじめ中国やアメリカの店舗を幾度となく訪れたが、店内には多種多彩な化粧品・香水などが並び、見ているだけでも楽しい。50ドル以上の購入で無料となるパーソナルショッパーサービスでは、たとえば20分間ビューティーアドバイザーのアドバイスを受けながら買い物することもできるし、60ドルを支払えば1時間、熟練のメイクアップアーティストからメイクのコツを聞きながらフルフェイスのメイクアップをしてもらうこともできる。このサービスは現在Zoomを介してオンラインでも受けることが可能だ。

 

ユーザー同士の”交流の場”をマーケティングに活用する仕組み

ビューティ・インサイダーの会員は専用アプリやウェブサイト上でほかのユーザーと”共通の悩み”について議論・アドバイスし合うコミュニティが用意されている
ビューティ・インサイダーの会員は専用アプリやウェブサイト上でほかのユーザーと”共通の悩み”について議論・アドバイスし合うコミュニティが用意されている

 セフォラは自社のウェブサイトで”A leader in prestige omni-retail(オムニリテールのリーダー)”を標榜しており、実際にデジタルを活用した顧客体験の向上に力を入れている。そのなかで同社が重視するのは「顧客とのつながり」であり、「ポイントプログラム」「コミュニティ」「インフルエンサー」の3つを核として、そこから取得した顧客データをビジネス上の資産として有効活用している。

 まず、誰もが入れるポイントプログラム「ビューティ・インサイダー(Beauty Insider)」は、単純に購入金額に対しポイントを付与するというものではない。購入金額に応じて3段階にランクが上がり、ランクに応じたセール時の割引率アップや購買時により多くのサンプルを貰えるなどの特典に加え、最上位ランクの”ROUGE”では限定イベントや先行販売などに参加できるようになる。

 さらに、ビューティ・インサイダーの会員になると、専用アプリやウェブサイトを介してセフォラの「コミュニティ」に入ることができる。「オイリースキン(脂性肌)」「ドライスキン(乾燥肌)」「メンズメイクアップ」といったさまざまなテーマのコミュニティがあり、それぞれで肌の悩みや化粧の仕方などについてユーザー同士で議論がなされている。こうした場は得てして、声の大きな一部の熱狂的ファンがブランドや商品に対する愛、知識をひけらかす場と化してしまうケースも多々あるが、セフォラは「よくある悩み」ごとにグループ化することで、ユーザーが建設的に語れる場を提供している。

 ここで重要なのは、これらのコミュニティが単なるユーザー同士の交流の場になっているわけではなく、書き込みの内容を通じてセフォラ側が「顧客の悩み」「商品の感想」などのデータを取得している点である。これらのデータはウェブサイト上での商品レコメンドの手法や店舗でのコンサルティングの内容に生かされており、最終的に顧客体験の向上につながっているのである。

 

 

 

 

 

美容系インフルエンサーにとってステータスとなった「#Sephora Squad」とは?

セフォラのPR活動を行う「#Sephora Suqad」は美容系インフルエンサーにとって大きなステータスとなっている
セフォラのPR活動を行う「#Sephora Squad」は美容系インフルエンサーにとって大きなステータスとなっている

 セフォラではこれに加えて、「#Sephora Squad」と名付たインフルエンサーの活用も進めている。毎年コンテスト形式によって任命し、1年間セフォラの商品やブランドのPR活動を行ってもらうという仕組みだ。2021年は39日に応募がスタートし、427日にファイナリスト選考が行われ、63日に58人の#Sephora Squadメンバーが発表された。

 #Sephora Squadのメンバーになることは、欧米の美容系インフルエンサーにとってステータスになっている。今年も多くのインフルエンサーが応募・選考用の投稿を行い、最終選考後はメンバーに認定された喜びを爆発させるインフルエンサーも多く、SNS上で大きな盛り上がりを見せていた。

 #Sephora Squadがここまでステータスと化している理由は、活動を通してフォロワーを増やすことができるのはもちろん、先行販売商品や限定商品をいち早く試したり、商品の共同開発や各種イベントへの参加などインフルエンサー活動においてさまざまなメリットを享受できるからだ。

 なお応募に際してはその時点でのフォロワー数に制限はなく、セフォラの従業員もチャレンジすることができる。人種、体型、性別など応募者のバックグラウンドは多様性にあふれているが、セフォラのマニフェストである “We Belong to Something Beautiful”(私たちは美しいものに属している)への共感が共通点となり、ストーリーテラーとしての素質や友人からの推奨を基準に選定される。

 セフォラは#Sephora Squadを介して、PRに長けたインフルエンサーから多くの情報を拡散してもらうことで、新規顧客の獲得、そしてビューティ・インサイダーのプログラムにどんどん入会してもらうという流れをつくっているのだ。

デジタルと同時にリアル店舗への投資を強化する理由

セフォラの店内の様子(筆者撮影)
セフォラの店内の様子(筆者撮影)

 他方、コロナ禍でセフォラはECの売上を大きく成長させたが、その要因の1つには、画像や動画を含む充実したレビューを閲覧できるというECサイトの使い勝手の良さが挙げられる。

 例えばセフォラ限定で購入できるスキンケアブランド「Drunk Elephant(ドランクエレファント)」の商品は、前述のコミュニティで人気を博しているため「Community Favorite」のタグが付き、レビュー数は約6000件に上る。ほとんどのレビュアーが自分が抱える肌の悩み、肌、髪、目の色を登録しているため、購入を検討する際に自分と似たようなスキンタイプや肌の悩み、年代でソートしてレビューを見ることもできる。レビューには使用後の写真や動画が多く含まれているのも特徴的だ。

 オムニリテールのリーダーとしてコロナ禍でEC売上を多大きく成長させたセフォラの次の一手は、リアル店舗の拡大だ。これは、コロナ禍で需要が急増したBOPIS /BORIS(ECで注文した商品の店頭受け取り/店頭返品)やカーブサイド・ピックアップなどのオムニチャネルサービスを拡大し、顧客がアクセスしやすい体験の拠点をつくるのが目的だ。21年中に自力での出店を60店舗行う予定であるほか、アメリカの百貨店大手コールズ(Kohl’s)とのパートナーシップのもと、23年までに同社が全米に展開する1000店舗以上のうち850店舗にインショップの形式で出店する計画である。

 デジタルで顧客と深くつながっている一方でリアル店舗への投資を強化するのは、扱う商品の特性上、顧客体験を創出する拠点としてはリアルに重きを置いているからだろう。コスメ用品はどうしても「実際に肌につけてみる」という体験に勝るものはなく、接客も顧客と対面して行うからこそ効果が高まるのは明白だ。

メーカーにとっても顧客にとってもメリットの大きいマーケティング手法

 ここまで見てきたように、セフォラのマーケティング戦略は、デジタル・リアルを両軸としたを介した「顧客体験の最適化」と「体験データの取得」、そしてそれらを資産として有効活用することにある。だからこそ、前述のドランクエレファントのように販売パートナーにセフォラを選ぶコスメメーカーが後を絶たないのである。それはセフォラの持つ顧客資産を活用しながらダイレクトに商品をユーザーに訴求でき、インフルエンサーの活動やコミュニティでのやり取りといったデータも商品開発の参考にできるからだろう。

 メーカーにとっても顧客にとってもメリットの大きいセフォラのマーケティングの手法や仕組みは、もっと多くの企業が参考にすべきものである。そして、デジタルマーケティングが新規獲得コストを下げてLTV(顧客生涯価値)を上げるという単純なものではないことを強く認識させられる。

 

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