「ラルフローレン」と「ユニクロ」が同じである理由とZ世代に対する誤解が生む悲劇
「Z世代は環境消費をする」は正しい分析か
一方、この期間、技術進化は止まるところを知らず、当時のスーパーコンピュータ並みのスマホを誰もが手に持つようになった。Z世代と呼ばれるデジタルネイティブが次の10年の消費の中心となる。
だが、私たちグレイヘアたちは、例のごとく誤った分析をしているように思う。私たちは、どうしてもビジネスモデル論や技術から販売戦略を考える、いわゆるプロダクト・アウト発想を長年批判しながらも、未だにプロダクト・アウトでしかものを語っていない。例えば、どこにいっても典型的な言葉・発言に「Z世代は、環境意識が高い(ため、SDGs的消費購買をする)というものがある。
まず、Z世代といっても下は10代から上は20代。もっと具体的に言えば、小中学生と大学生、新社会人などが対象となっており、消費行動は全く違う。Z世代が環境意識が高いというのは、最近になって「学校教育」で、SDGsについての授業が増えてきたことが理由だ。特に高学歴と言われる有名大学の富裕層大学生達は、確かに環境意識をピュアに自分ごとと考え、また、具体的に消費行動する余裕も出てくるだろうと思う。しかし、小中学生、高校生や奨学金などで大学に通う苦学生が、環境コストを必要コストと考え、私たち人類の将来のために消費を工夫しているとは全く思えない。
あらゆる調査をネットで調べても、確かに「知識」としては、私たちグレイヘアの若い時代と比較にならないほどZ世代はSDGsについて知っている。だが、実際の購買行動は、小中学生は「カワイイ」と「お買い得」が最も重要な購買動機(Key buying factor)である。環境意識と購買動機の関連性について、論理的整合性を持って分析しているものは見当たらなかった。だから圧倒的な低価格で素性の知らない商品を販売しまくる中国のモンスター企業Sheinが勢力を拡大していても、何の不思議もないのだ。
確かに、環境破壊が進み人類の生存さえ脅かすほどになってきた今、将来の消費者は自分達と違って、環境のため人類のために望ましい購買行動をとるだろうという性善説に立ちたい気持ちはわからないでもない。だが、そうなる因果関係が不明瞭な帰結に期待することは、希望と現実を混同した神頼みと何ら違いはない。ましてや、それを盲目的に信じ、新ブランドと称して大きな投資を行うことも大きなリスクだと私は思う。
私は学校教育を批判しているわけではない。前回のエルメスアーカイブの隣には、環境インフルエンサーとも言えるファッションモデルが自社ブランドを立ち上げ、インスタなどでファンを呼び込んでいた。だが、これあくまでも例外である
残念だが、世代はどうあれ人の本質はそれほど変わらない。消費行動とは、我々消費者を取り巻く社会環境や所得、そして、社会の未来の展望と相関性があり、そのような本質的な課題解決をしなければ座学は机上の学問で終わってしまうのは、倫理や道徳の授業と同じである。私たちが幸せになるためには一定の経済的背景が必要であり、それは産業政策と深い関係があるというのが本日の趣旨である。
プロフィール
河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)
ブランド再生、マーケティング戦略など実績多数。国内外のプライベートエクイティファンドに対しての投資アドバイザリ業務、事業評価(ビジネスデューディリジェンス)、事業提携交渉支援、M&A戦略、製品市場戦略など経験豊富。百貨店向けプライベートブランド開発では同社のPBを最高益につなげ、大手レストランチェーン、GMS再生などの実績も多数。東証一部上場企業の社外取締役(~2016年5月まで)
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