脱トレードで問題解決業をめざせ!アパレル商社の生き残り戦略が「デジタル」ではない理由
商社の本質はトレードではなく、問題解決

例えば、今、アパレル業界は自ら調達を行う直貿(直接貿易)化が急拡大しているが、あえて商社繊維部、繊維商社が、そのノウハウをアパレルに注入すればよいと私は思う。商社が20%の口銭(手数料)をとれば、百貨店アパレルであれば x5、ショッピングセンターであれば x3の負担がアパレルに襲いかかる。ほとんど商社をつかわないグローバルSPAにアパレルが勝つためには、直貿化の流れは必然である。
また、昨今アパレルが直貿を行う理由は、些細なレベルのコスト削減でなく、いままで「売り方」だけで競争してきた限界を感じ、自ら製品製造のノウハウをきっちり理解し、コントロールするためだ。
実際、伊藤忠商事はスポーツ衣料のデサントにTOBをかけ、韓国市場一本だった同社を中国市場に振り向かせているし、三菱商事は何人もの企業再建担当経営者を数多くのアパレルに送り込んでいる。彼らは、前工程が売れなければ中間流通たる自分自身の身が危ないと思っているからこうしたダイナミックな動きをしているわけだ。
商社繊維部、繊維商社は、売れないアパレルのOEMでさんざん苦労した歴史があるから、もうアパレルのいいなりになるのはこりごりだ、という気持ちに満ちあふれている。しかし、商社繊維部、繊維商社の本質とはなにか、と問われれば、「優秀な人材」と「世界中に張り巡らされた情報収集力」、および「圧倒的な資金力」である。つまり、人、情報、金を使うビジネスであれば、何をやってもよいはずなのだ。だから私はトレードをやめ、投資と問題解決を早急に行え、ということを申し上げている。また、百歩譲ってデジタル化を推進するとしても、それは、自社の生産性の向上でなく、取引先の競争力を高めるためのソリューションでなければならない。デジタル単体で競争力が高まるはずがない。ユニクロなども、デジタル化をせずとも競争力があるから、デジタル化をすることで、その競争力が盤石となるのである。
今、商社繊維部、繊維商社では、私から見て、おおよそ戦略的とは思えないデジタル化に多額の投資をしているように見えるが、その先に、取引先ブランドが高い競争力を持ち、業界全体が健全な競争を行う産業構造を生み出すシナリオがみえているのか、と問いたい。先にあげた「商社の本質」から、流行に惑わされることなく、今こそゼロベースで「前が売れるために自分に何ができるのか」を考えてもらいたい。
商社繊維部、繊維商社はプライベートエクイティになってもよいし、ターンアラウンドコンサルティング領域に打って出ても良いと思う。その気になれば、商社繊維部、繊維商社はコンサルティング会社や広告代理店なども買収することだってできるだろう。今、産業界に必要なのは、これ以上のトレードではないことは明らかである。経営環境は大きく変わっている。商社繊維部、繊維商社も変化の並に抵抗するのでなく、変化の波に乗ることが復活のためのヒントとなる。
早くも3刷!河合拓氏の新刊
「生き残るアパレル 死ぬアパレル」好評発売中!
アパレル、小売、企業再建に携わる人の新しい教科書!購入は下記リンクから。
プロフィール
河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)
ブランド再生、マーケティング戦略など実績多数。国内外のプライベートエクイティファンドに対しての投資アドバイザリ業務、事業評価(ビジネスデューディリジェンス)、事業提携交渉支援、M&A戦略、製品市場戦略など経験豊富。百貨店向けプライベートブランド開発では同社のPBを最高益につなげ、大手レストランチェーン、GMS再生などの実績も多数。東証一部上場企業の社外取締役(~2016年5月まで)
河合拓のアパレル改造論2021 の新着記事
-
2022/01/04
Z世代の衝撃#4 Z世代を追えば敗北必至!取るべきトーキョー・ショールーム・シティ戦略とは -
2021/12/28
Z世代の衝撃#3 既存アパレルが古着を売っても失敗する明確な理由とは -
2021/12/22
インフルエンサー・プラットフォーマー「Tokyo girls market」驚異の戦略とは -
2021/12/21
プラットフォーマー起因の歪な過剰生産が生み出す巨大ビジネス、SheinとShoichi -
2021/12/14
Z世代の衝撃#1 ライブコマースで「インフルエンサー・マーケティング」が失敗する衝撃的理由 -
2021/12/07
TOKYO BASEがZ世代から支持される理由と東京がショールーム都市になる衝撃
この連載の一覧はこちら [56記事]
ファーストリテイリング(ユニクロ)の記事ランキング
- 2025-03-12ユニクロ以外、日本のほとんどのアパレルが儲からなくなった理由_過去反響シリーズ
- 2024-09-03アローズにビームス…セレクトショップの未来とめざすべき新ビジネスとは
- 2025-11-04ユニクロの「棚割り」に見るインクルーシブMDへの“覚悟”
- 2021-03-05ビジネスは「一勝九敗」 ファーストリテイリングを世界的大企業に導いた“柳井哲学”
- 2022-11-29シーイン模倣騒動と大差ないアパレル業界のパクリ体質 シーインがそれでも勝つ理由
- 2021-05-11キーワードは科学、製販統合!「無敵のユニクロ」を凌駕する「知る人ぞ知る」ファッション商品
- 2023-08-28ユニクロと東レとのサステナブルな関係から生まれたリサイクルダウン
- 2023-11-14GMS衣料のジレンマと真実!イトーヨーカ堂アパレル完全撤退の必然とは
- 2024-09-27ユニクロが中間価格帯になったことに気づかない茹でガエル産業アパレルの悲劇_過去反響シリーズ
- 2024-11-07同じ低価格なのに…GUがしまむらやワークマンと「競合」しない決定的な理由_過去反響シリーズ
関連記事ランキング
- 2025-11-25ワコールを追い詰めた「三つの革命」
- 2025-12-02HUMAN MADE上場から考えるファッション産業の構造的限界
- 2025-11-27急拡大するリカバリーウエア市場を攻略する
- 2025-03-12ユニクロ以外、日本のほとんどのアパレルが儲からなくなった理由_過去反響シリーズ
- 2024-09-17ゴールドウイン、脱ザ・ノース・フェイス依存めざす理由と新戦略の評価
- 2025-11-24間違いだらけのアパレルDX改革、根本から変えるべき「KPIの設計哲学」
- 2025-11-26業態別 主要店舗月次実績=2025年10月度
- 2024-09-30100兆円市場誕生!食品卸、市場規模&市場占有率2024
- 2021-11-23ついに最終章!ユニクロのプレミアムブランド「+J」とは結局何だったのか?
- 2024-09-03アローズにビームス…セレクトショップの未来とめざすべき新ビジネスとは
関連キーワードの記事を探す
国内ユニクロ事業が売上収益1兆円を突破 ファーストリテイリング本決算を徹底分析
アパレル売上ランキング2025 ファストリの売上高3兆円台に!
百貨店を生活商圏型SCに転換!「ららテラス川口」の全貌と戦略とは?





前の記事
