ドン・キホーテが本気で恐れる「若者離れ」の深刻な正体
宝探しをリアル店舗ではなくSNSで行う若者たち
迷路のように入り組んだ通路、天井近くまでうず高く商品が積み上げられた「圧縮陳列」、ド派手なPOPの洪水――。そうした“猥雑”な雰囲気のなかで、宝探しをするような感覚でワクワクしながら買物を楽しめる「時間消費型」の店づくりが、PPIHが考える「ドン・キホーテの価値」だった。しかし都内の大学生に話を聞くと、「買物することはあるので『ドンキ離れ』といわれるとピンと来ない。でも、事前に買うものは決まっているから、(ドンキは)時間をつぶす場所にはならない」と断言する。「買うものが決まっている」のは、彼らがツイッターやインスタグラムなどのSNSであらゆる情報を収集するためだ。 “宝探し”なら、SNS上でも十分体験できるというわけである。
「アマゾンという巨艦にはどうあがいても勝てない」(大原氏)として、PPIHは18年に国内EC事業から全面撤退している。勝ち目のない競争に参加するよりも、リアル店舗の価値や魅力の最大化に集中するほうが得策、という考え方である。しかし、その価値や魅力が若年層に響いていないとすれば、PPIHは新しい店のあり方を再考しなければならない。
もっとも、PPIHも手をこまねいているわけではない。今年11月には、外部リソースの活用を前提とした新しいマーケティング戦略「マシュマロ構想」を発表。その一環として、10代の若者をインターンシップで受け入れ、「ドン・キホーテ」に対するアイデアや要望をヒアリングしたり、SNS上で影響力を持ついわゆる「インフルエンサー」を介したマーケティングを主事業とするITベンチャーと資本業務提携を結んだりするなど、具体的な行動を起こしている。
表れた経営課題をすぐに把握し、それに対する打ち手を瞬時に繰り出す――。変化対応を是としてきたPPIHならではのスピード感も、彼らの成長の根源にあるのだろう。
米国事業を行うはずの大原氏は雲隠れ…
さて、冒頭の決算発表の場では、大原氏がPPIHのCEOおよび国内グループ会社のすべての役職から退くことを発表。後任として、代表取締役専務兼CAO(最高事務責任者)を勤めていた吉田直樹氏がCEOに就任することを明らかにした。大原氏は米国事業に専念するため、同事業の運営会社のトップに就任すると発言。しかしその後具体的な動きは見られず、“雲隠れ”の状態だ(自身のインスタグラムでは、「9月25日を持って(株)PPIHを完全卒業」と発表)。
いずれにしても、1978年に創業者の安田隆夫氏が東京都杉並区内にドン・キホーテの前身「泥棒市場」を開業してから約40年。かつては競合とすら見られていなかったユニーも手中に収め、1兆円超の売上規模を誇る国内有数の小売企業に上りつめたPPIH。吉田新社長のもと、GMSの新たな盟主としての一挙手一投足から目が離せない。