ユニクロがデジタル人材に年収10億円を払う理由と時代遅れのKPIが余剰在庫を量産する事実
従来のKPIがアパレルを窮地に追いやる理由
まず、誰もがその妥当性さえ疑っていない「MD(マーチャンダイジング)業務」というものがあるが、これは、文字通り、読んで字の如く「マーチャンダイジング(商品)計画」であり、売上計画を週別、月別に落とし「商品」投入時期を決め、さらに、そこから調達計画をきめてゆくものだ。最近では、キャッシュフロー経営が重要になってきたということから財務部と連携し、必要あらば、分割納入や商社金融などの可能性も検討対象となっている。しかし、何度も指摘しているように、この段階で、MD業務に「顧客のビッグデータ」は活用されていない。あくまでも、過去のアイテム別商品動向から将来の動きを予測する。
「MD業務」は、致命的な欠陥を持っている。理由は、市場が18億枚〜20億枚しか吸収しないのに、2万社弱あるといわれる日本のアパレル事業所からは、毎年必要量の2倍の35億枚〜40億枚も投入され、昨年度の持ち越し分を合わせると、桁違いな過剰供給になるからだ。具体的には、
こうした在庫過多は、「顧客」が不要と考えているにも関わらず、自社の売上都合で在庫をため込み、物理的に不可能な「1リットルしか入らないバケツに2リットルの水を入れようとしている」から起こっていることだ。
論理的に考えれば、クイックレスポンス(QR)もAIの需要予測もこの問題は解決しないことは明らかだ。単に作りすぎているだけなのである。これは、調達段階から「顧客」(自社の商品を優先的に買ってくれる人)のパフォーマンスから、調達量を算出しないからだ。
もう少し噛み砕いて解説してみる。
例えば、売上が100億円だった場合、この意味を
- 平均単価 3,000円の商品が、約300万枚売れた
- 客単価 (商品一点単価 x セット率 x 購買頻度/年=60,000円)が、17万人買ってくれた *一点単価を3000円、セット率を2、
年間購買頻度を10枚と暫定的におく
のどちらで考えるか?
ほとんどのアパレル企業は1で判断するはずだ。私が提唱する2.「次世代KPI」で考える企業は、通販企業を除けば皆無だろう。だから、そもそもの数量から間違えてしまう。もちろん、ユニクロのように単一ブランドで売上8000億円(国内市場)まで規模の経済が働けば話は別だ。
思えば、「商品粗利」、「商品消化率」、「商品評価損」、「ABC分析」など、私たちが使っている、ほぼ全てのKPIは「商品ベース」で、ここに疑問も持っている人はいない。
これは、バブル時代から全く変わっていない、売上を上げようとすればするほど、商品投入量を「将来の売上」と考え作りすぎるわけだ。その結果、余剰在庫が残された。
今は顧客のニーズが多様化し、買い換えサイクルが長期化、二次流通市場が拡大している。そうした環境では、誰が買うのか分からない「玉」を仕込むより、「買ってくれた実績のある顧客」を追いかけ、「一点単価」「セット率」「購買頻度シェア」のいずれかを分析し、総購買層の中から異常値になっている顧客クラスターに対し、具体的な原因究明と解決案を向上する施策を、デジタル技術をつかって実行する方が理にかなっているだろう。
これがデジタルマーケティングである。
河合拓のアパレル改造論2022 の新着記事
-
2023/01/24
「大ディスカウント時代が到来」 この意味が分からないアパレルの未来は悲観的な理由 -
2023/01/17
H&MやZARA等が原価下回る価格で取引を強要 SDGs時代にこんなことが起こる必然の理由 -
2023/01/10
ビッグデータを制する企業が勝利する理由と、M&Aできない企業が淘汰される事情 -
2022/12/27
2023年のアパレル大予測 外資による買収加速・DX失敗・中国企業に完敗、が起こる理由 -
2022/12/20
中国企業傘下の仏メゾン「ランバン」米国で上場 いまや中国企業に追いつけない理由 -
2022/12/13
過去のヒットからAIが予測し売れる服を自動生成!?アパレル業界の課題とこれからとは
この連載の一覧はこちら [55記事]
ファーストリテイリング(ユニクロ)の記事ランキング
- 2024-11-13値上げしたのにアパレル業界が利益に結び付かない2つの理由
- 2024-11-07同じ低価格なのに…GUがしまむらやワークマンと「競合」しない決定的な理由_過去反響シリーズ
- 2024-01-02勝ち組はSPAではなく「無在庫型」へ 2024年のアパレル、5つの受け入れ難い真実とは
- 2023-08-28ユニクロと東レとのサステナブルな関係から生まれたリサイクルダウン
- 2024-09-27ユニクロが中間価格帯になったことに気づかない茹でガエル産業アパレルの悲劇_過去反響シリーズ
- 2021-05-04大丸、三越伊勢丹…誰も語れない百貨店分析 政府の施策が百貨店を殺す「本質的理由」
- 2024-09-03アローズにビームス…セレクトショップの未来とめざすべき新ビジネスとは
- 2022-05-03ユニクロ独走の秘密は販管費にあるのに、原価削減を繰り返すアパレルの実態とは
- 2024-02-21ファストリ業績絶好調も…日本の大衆から乖離するユニクロはどこへ行く?
- 2024-08-20売上100億円の超高収益アパレルが増殖の理由とユニクロとの共通点
関連記事ランキング
- 2024-10-29ライザップ傘下の夢展望、Temu効果で株価高騰も拭えない「不安」とは
- 2024-11-05ユニクロがZOZOに出店しない当然の理由と今後のECモールとの付き合い方
- 2024-11-12アパレルは「個人売買」「古着」が、今後驚くほど拡大する理由
- 2024-11-19ユニクロ、開始から7年で明らかになった有明プロジェクトのいまとすごい成果
- 2024-11-13値上げしたのにアパレル業界が利益に結び付かない2つの理由
- 2024-10-22事業再生、「自ら課題解決する」現場に変えるための“生々しい”ノウハウとは
- 2024-11-07同じ低価格なのに…GUがしまむらやワークマンと「競合」しない決定的な理由_過去反響シリーズ
- 2024-09-17ゴールドウイン、脱ザ・ノース・フェイス依存めざす理由と新戦略の評価
- 2021-11-23ついに最終章!ユニクロのプレミアムブランド「+J」とは結局何だったのか?
- 2023-08-08EC時代にスクロールとベルーナだけ好調 生き残るカタログ通販、死ぬカタログ通販
関連キーワードの記事を探す
ファストリが3兆円突破!24年8月期決算で語られた今後の成長戦略
「亜熱帯化」でも売上を伸ばすユニクロ、伸び悩むアパレルとの違いとは
ユニクロが中間価格帯になったことに気づかない茹でガエル産業アパレルの悲劇_過去反響シリーズ