ユニクロがデジタル人材に年収10億円を払う理由と時代遅れのKPIが余剰在庫を量産する事実
ファーストリテイリングがデジタル人材に
最大10億円を支払う意味とは

「データサイエンティスト」と呼ばれる、デジタルとマーケティングの両刀遣いを社内に揃えることが、デジタルマーケティングの覇者になる条件といわれている。だが現実は、システムは詳しいが分析力はサッパリという「デジタル人材」が大量に「データサイエンティスト」の名をかたり、いわゆる「マーケター」としての腕はサッパリというケースが散見される。
「データサイエンティスト」は、ウエブ以外の、リアル店舗にも設置されたデジタルデータを苦も無く操り、ゼロベースで事業上の仮説を縦横無尽に抽出し、いままで知ることができなかったような神の領域にまでもデータで検証する、顧客の動態的データから将来予測と商品の関係性を見いだす人だ。21年、1月16日日経新聞で「ファーストリテイリング」が、有能なデジタル人材に10億円を支払うと報道し、産業界は度肝を抜かれたが、逆に言えば、それだけデジタルとビジネスの両刀遣いが貴重な存在だということである。
さらに、DXには目標が大事と判を押したようにいう人が多いが、「では、その目標とは何なのか」と問えば、システム導入する事業会社本人はおろか、本来、システム導入をするベンダーとユーザの間に立つコンサルタントでさえ、その目標とやらを理解していない。つまり、ユーザ、コンサル、SIerの3パーティが、過去から今に至るまで「目標を決めよ」と、他力本願の如く禅問答のような言葉を繰り替えしているだけなのだ。
10億円支払えない企業がやるべきことと、それを阻害するもの
日本には、昔から「三人寄れば文殊の知恵」という言葉がある。ユニクロのように10億円払えない企業は、デジタルのプロ、事業のプロ、両者の意見を合理的にまとめるプロの3パーティーに分け、3名で知恵を出し合えば良いのだが、日本企業にはこれができない構造的欠陥がある。それは、新卒採用と純血主義だ。
私がコンサルティングに入る会社で、とくに業績が急降下している会社ほど、「純血主義」を守り中途採用をしていない。彼らは、必ず「うちは特別だ」という。だから、何も知らない学生を、自分の会社の先輩に仕事を教えさせ中途から入った人間には「あいつは空気が読めない」とか、「うちの文化を理解していない」など、実際は自分たちの方が特殊なことに気づいておらず、テコでも動かない組織を作り上げている。私が、パートナー(コンサルティング会社の最高職位)に昇進したとき、そのファームの過去の成長トレンドグラフをみせられ、急激に成長をした変曲点を見せられ理由を話し合ったことがある。
答えは、「その年に新卒採用を絞り込み、経験者を大量に入社させた」ということだった。そのファームは結果的に、社内のコミュニケーションは「論理」と「事実」、「数字」でなされるようになってゆく。これが、正しい「三人寄れば文殊の知恵」だ。「うちの会社ではこれが常識だ」という会社はもはや救いようがない。私たちは変わりたくない、といっているのと同じだからだ。
河合拓のアパレル改造論2022 の新着記事
-
2023/01/24
「大ディスカウント時代が到来」 この意味が分からないアパレルの未来は悲観的な理由 -
2023/01/17
H&MやZARA等が原価下回る価格で取引を強要 SDGs時代にこんなことが起こる必然の理由 -
2023/01/10
ビッグデータを制する企業が勝利する理由と、M&Aできない企業が淘汰される事情 -
2022/12/27
2023年のアパレル大予測 外資による買収加速・DX失敗・中国企業に完敗、が起こる理由 -
2022/12/20
中国企業傘下の仏メゾン「ランバン」米国で上場 いまや中国企業に追いつけない理由 -
2022/12/13
過去のヒットからAIが予測し売れる服を自動生成!?アパレル業界の課題とこれからとは
この連載の一覧はこちら [55記事]

ファーストリテイリング(ユニクロ)の記事ランキング
- 2025-03-11アパレルの離職率低下のためにすべきこと、やってはいけないこととは
- 2024-09-03アローズにビームス…セレクトショップの未来とめざすべき新ビジネスとは
- 2023-12-12日本のアパレルは勝てない!Z世代起点にするDholiCのビジネスモデルを解明!
- 2025-05-09ユニクロ過去最高益を更新 トランプ関税への備えと個店経営強化が示す意味
- 2021-05-04大丸、三越伊勢丹…誰も語れない百貨店分析 政府の施策が百貨店を殺す「本質的理由」
- 2021-05-11キーワードは科学、製販統合!「無敵のユニクロ」を凌駕する「知る人ぞ知る」ファッション商品
- 2022-03-15アパレルをオワコン化させているのは「人災」であるこれだけの理由
- 2024-01-22ZOZOに勝つ!日本のアパレルが「シーイン」になる唯一の手法とは
- 2024-08-27好調アパレルに異変?在庫回転率悪化の複数要因とファストリ改善の理由
- 2025-03-04GUがアンダーカバーとの新ライン「UG」を始めるスゴいねらいと効果
関連記事ランキング
- 2025-06-18元アダストリアCFOが手掛ける高級レディースブランド「エレメントルール」急成長の理由
- 2025-05-29食品スーパーの現場に特化したシューズ開発も! ミズノの「ワークビジネス戦略」好調の理由
- 2025-06-23もはや日本は亜熱帯!? 温暖化でもアパレル小売が儲けるための3つの秘訣
- 2025-05-29テナント賃料は高いのか安いのか、不動産から考えるアパレルチェーンの出店戦略
- 2024-09-17ゴールドウイン、脱ザ・ノース・フェイス依存めざす理由と新戦略の評価
- 2025-03-11アパレルの離職率低下のためにすべきこと、やってはいけないこととは
- 2025-05-22業態別 主要店舗月次実績=2025年4月度
- 2023-07-18ハニーズ復活の理由と高収益を支える、真似できない「生産の秘密」とは
- 2024-09-03アローズにビームス…セレクトショップの未来とめざすべき新ビジネスとは
- 2025-01-072025年、アパレル5大予測!激安EC隆盛がむしろユニクロ一強を促す理由
関連キーワードの記事を探す
もはや日本は亜熱帯!? 温暖化でもアパレル小売が儲けるための3つの秘訣
元アダストリアCFOが手掛ける高級レディースブランド「エレメントルール」急成長の理由
テナント賃料は高いのか安いのか、不動産から考えるアパレルチェーンの出店戦略
ユニクロ過去最高益を更新 トランプ関税への備えと個店経営強化が示す意味
アバクロ復活、ユニクロを世界服に導いた「インクルーシブマーケティング」とは
アパレルの離職率低下のためにすべきこと、やってはいけないこととは
GUがアンダーカバーとの新ライン「UG」を始めるスゴいねらいと効果