Z世代の衝撃#1 ライブコマースで「インフルエンサー・マーケティング」が失敗する衝撃的理由

河合 拓 (株式会社FRI & Company ltd..代表)
Pocket

ライブコマースは手段であって目的でない

「全てはお客様が起点となる」

これは、私が企業・事業を再建する時、神棚に飾っておく格言だ。お客様が「買いたい」と思わなければ消費は発生しない。「ライブコーマースがキーワード」と、宣っているご意見番がおり、告白すれば私もその一人だったが、「ライブコマース」をやっても売上はあがらない。過去、まだSNSを使ったPRが黎明期だったときは多少の効果はあっただろうが、今は、もう猫も杓子もライブコマースだらけだ。もはや、目新しい手段でないライブコマースは「質の勝負」になっている。

世の中が見えないと感じるなら、ターゲットのお客様を呼び徹底的に対面インタビューをやればよい。私は、フォーカスグループインタビューは一日に3コマで一週間という地獄のスケジュールにすべて参加する。私の20年の経験から言って、こうしたアパレルのブランドに対するインタビューに最後まででた人は200−300名以上いたが、2名しかいなかった。「あとは、レポートにまとめておいて」といって、このステップを「時間がかかって面倒だ」とスキップするか、数値偏重主義から、あやまった調査設計で定量調査をやり、数字を自分都合に解釈するか、なんの関係もないセグメント分析を100ページぐらいやって戦略的示唆もだせずパラパラ漫画とかわらぬ調査をやるかのいずれかだ。こういうやり方をするから先が見えないのである。これらは、すべて実務経験が無い人間が初期仮説をあやまって置いているからだ。

すべては観察による分析からはじまる

例えば「Z世代」を観察すれば非常に示唆深い結果が分かる。私の分析では、彼女たち、彼らにとって「インフルエンサー・マーケティング」は高い確率で失敗する。

Z世代」の女子たちのファッション情報の入手元はインスタが圧倒的だ。女性は右脳で「感じて」追いかけ、男性は左脳で「納得して」追いかける。だから、お寿司屋でうんちくを語っているのは例外なく男性だ。女性は「おいしそう!」でおわりである。つまり、写真や短い動画は女性向きなのである。また、女性・男性関係なく「わざとらしい広告」は簡単に見抜き、彼女たちは「服」を追いかけず、右脳に残像が残り、こんなライフスタイルになりたいと共振する「脳内共鳴」が蓄積する人をフォローするのだ。 

これが、一昔前なら、有名モデルを使えばよかったが、今は、日本市場に限って言えば、こだわりのある一般人の方が脳内共鳴されやすい。その総体が多い人が、いわゆる「YouTuber」や「グラマー」と呼ばれる人で、こういう人を企業が「インフルエンサー」と称して商品化し、「逆もまた真なり」とばかりに、自社商品販売に利用する。だが、そもそも脳内共鳴は、結果的にインフルエンサーとなった人の「こだわり」に対して蓄積していることを忘れてはいけない。

消費者である女子達は、楽しいと思って見ていたYouTuber」や「グラマー」が、買うはずないと思われる商品やサービスを褒めている姿をみれば消費者の脳内共鳴はすぐ止まる。結果、熱烈なファンは徐々に購買のモチベーションを失う。
なお、コンバージョン(消費者がお金を払うファネル分析の最終段階)に至るCPA (顧客獲得単価、お客様のクレジットカードやメールアドレスを自社のサーバに登録するコスト)は、今や20,000/人を超えている。
そもそも、マーケティング会社では、「うちのコンバージョンは3000/人ですよ」というので、調べてみると、「2ステップマーケティング」(1ステップで、オウンドメディアに登録させて、2ステップ目で商品を買う)の1ステップ目の話をしていることが多い。しかし、こうした構造だと1ステップ目の「コンバージョン」でマネタイズできないわけだから、CPA < LTVが成立しないではないか。つまり、「2ステップマーケティング」を採用し、ROAS(投資広告費回収率)を計測するなら、コンバージョンに至るまでをCPAとしないとLTVとの見合いが釣り合わないことになる。今のアパレル業界は、マーケティング会社もアパレル企業もこんな簡単な理屈が理解できていないほど論理力が低下しているわけだ。

加えて、デフレによって利益率は悪化。低い利益率と、顧客が競合に簡単にスイッチしてしまう(離脱)ため、LTV(顧客生涯価値)回収は現実的に不可能となる。これも、自分でファイナンスモデルをつくったことがない人間がよくやるミスだ。

特に、巨大企業はこうした一連のつながりを理解しておらず、営業には売上を、マーケティング部には顧客開拓をKPI(重要業績指標)として命じるから、営業はどんどん値下げし、マーケティング部は闇雲にコストをかけ顧客開拓をし企業赤字は増えていく。代理店に「インフルエンサー・マーケティング」を進められ、効果がでなかった経験がある方はこうしたメカニズムを理解すべきだ。論理的に考えればすぐにわかるだろう。

1 2 3

記事執筆者

河合 拓 / 株式会社FRI & Company ltd.. 代表

株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)。The longreachgroup(投資ファンド)のマネジメントアドバイザを経て、最近はスタートアップ企業のIPO支援、DX戦略などアパレル産業以外に業務は拡大。会社のヴィジョンは小さな総合病院

著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「生き残るアパレル死ぬアパレル」「知らなきゃいけないアパレルの話」。メディア出演:「クローズアップ現代」「ABEMA TV」「海外向け衛星放送Bizbuzz Japan」「テレビ広島」「NHKニュース」。経済産業省有識者会議に出席し産業政策を提言。デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言

筆者へのコンタクト

関連記事ランキング

関連キーワードの記事を探す

© 2024 by Diamond Retail Media

興味のあるジャンルや業態を選択いただければ
DCSオンライントップページにおすすめの記事が表示されます。

ジャンル
業態