日本のアパレルではもはや流通改革は成し遂げられない絶望の理由

河合 拓 (株式会社FRI & Company ltd..代表)
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今回の論考は、アパレル業界の先行きを案じた、ややネガティブな論調となる。ただし、コロナで服が売れなくなる、などそういったレベルの話ではない。再三警報を鳴らしているように、日本はアジアでは後進国になりつつあり国民は服など買う余裕すらないということに気づいていない。今、さまざまな的外れな分析をしているアナリストが多いが「価格は正義」、服など部品にすぎない、ということを全く理解していないからだ。価格をグローバルレベルにするためには、アパレルサプライチェーンを最適化しなければならないのだが、脆くも既得権益の受益者たちの暗躍によって頓挫してしまったという内容である。このままでは、ユニクロや安売りアパレル以外は「集団死」してしまう。その警鐘を鳴らすものだ。

kmatija / istock
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今、購買要因となるのはブランドではなく“館(やかた)”

 今、「価格は正義」である。つまり、貧しく将来が不安な消費者達にとって、一点単価が2000−3000円を上回るような服は、いかなる努力もしても売れない、いや、正確にえば、一部のブランド化に成功した企業以外は無駄であるということだ。嘘だと思うなら消費調査をやれば良い。また、自分の企業の商品はブランド化されていると勘違いしているアパレルの多いことか。ならば、私が答えを言おう。あなたの「ブランド」の売上の70%以上が30%未満のロイヤル顧客によって構成されているか調べれば良い。今、日本の消費者にとって購買要因となるのは館(やかた)である。ルミネで買う、パルコで買う、伊勢丹で買う、阪急で買うなどのごとくだ。中に入れば皆一緒。Webで横並びされれば一発で横比較されて価格競争に陥る。世界ではこのようなものを「ブランド」とは呼ばない。

 ブランドがブランドたる所以は、「特定の顧客がついていること」と「価格にプレミアムがつくこと」だ。それでは、価格をグローバルでも戦えるレベルに下げるためにはどうすればよいか。世界で稀に見るほど歪なサプライチェーンを形成している流通改革を成し遂げることである。私は、10年前に流通とブランドの関係を明らかにし、ユニクロの流通構造を克明に記して「ブランドで競争する技術」という本に書いたのだが、産業界は全く動かなかった。流通出身の私はわかってはいたが、まずは理論化することに意味があったわけだ。

 そして、デジタル化が進んだ今、海外でPLM (Product Lifecycle Management)という、サプライチェーン全体をデジタル化するパッケージが日本に入り、私は業務改革でダメならシステム化で日本のサプライチェーンを正常化させようとし、自らのライフワークとしたわけだ。しかし、私の苦労は無駄骨と終わったのである。

 しばし、このテコでも動かない日本のアパレルの流通構造の歪さを説明するため、昔話にお付き合い願いたい。

アパレルの無理・無駄・無茶に応え、疲弊する商社社員

 私がコンサルタントに転身する20年前、日本はQR(クイック・レスポンス)一色だった。現場でアパレル企業のOEMをやっていた私は、毎年繰り返されるアパレルからの無理、無茶、無駄な要求に応え、ときに下僕のような仕事を強いられ、フラストレーションの塊だった。一方、決算を締めてみれば過去最高益、計画対比では常に上振れし、上司からは「お前らは、数字は読めないが数字を作るのは得意だ」(頭は悪いが、手足を動かすのだけは得意だ)と揶揄されたものだった。

 憧れて入社した商社だったが、やっているのはアパレルの奴隷のような仕事。今だから告白するが、自分の仕事にプライドも将来も感じられなくなって、病院に通ったこともあったほどだった。数字は伸びているし、海外に頻繁に行って、それなりに遊ぶこともできたし、「世界を股にかけた商社マン」として世間体も良かった。それでも、レベルの低いアパレル連中に指示にご機嫌をとって、ヘコヘコしている自分に嫌気がさしとうとう会社を辞めた。

 経営コンサルタントとなった後、当時9大商社と呼ばれるほとんどの繊維、アパレル部門に出入りするようになり、様々な商社のOEM部隊の相談を受けた。驚くべきことに、実は、ほぼ全ての商社で、私と同じような悩みを持っていたのだ。テンションを上げているのは、実際に辛い目に遭っていない、いわば部下をこき使ってふんぞり帰っている上司だけ。下の人間は皆疲弊しプライドも傷つけられ「こんな仕事は商社マンのやるものではない」と思っていた人が多かった。

 それほど、OEMという仕事は、なんの主体性もない仕事だった。また、どう考えてもアパレル側の、組織の末端のいち担当者のミスと思しき在庫、支払い、検品のミスさえ押しつけられ、「それを拒めば、他に仕事を移すぞ」と脅されたことは一度ではなかった。ブランドが撤退するあるアパレルから、たんまりと難癖をつけられ大量に商品を返品されて大きな損失を被ったこともある。

  今は、格好良くメディアでSDGs(持続可能な開発目標)などと言っているあるアパレルが、その昔、最初から無茶な納期を勝手に設定し、そのまま話を進め商品が入らないとなると鬼のように怒鳴りつけるのが日常茶飯事。最後は、「河合さん中国まで取りに行ってください」とさらりと言ってのける非常識ぶりである。私は海外まで数枚のサンプルを取りに行ったことなど数度ではなかった。これが直貿の実態だから、私はアパレルが自分で直貿をやっていると言っても信じないのだ。 

 聞けば、今でもそんな馬鹿げた仕事は続いているという。唯一昔と違うのは、昔は、初速に応じて現物納品をしていたので、歯を食いしばってこうした無茶についてゆけば利益は出たし成長もしていたということだ。ところが今は、アパレルはどこも苦戦し、そもそも商品が売れない。それなのに、商社はアパレルに付き従って苦しい思いだけしているのである。商社の人は口を揃えて「OEMなどもうやらない」はいうものの、長年それしかやってこなかったので他のことができない。結局は、前(マーケットに出ている商品)が売れないから、ドミノ倒しのように低収益に陥っているわけだ。

 今、商社やメーカーに「OEMをやらないか」と言うと、信じられないほどの拒絶反応を得る。中には「お前は、俺たちを舐めているのか」と怒鳴り出す人もいるほどだ。昔の、そして、今の一部の、いや大部分のと言って良いだろうアパレルのメチャぶりのトラウマから抜けられず、OEMなど二度とごめん被るというのが商社、メーカーの本音なのだ。

 アパレルの「直貿」の多くは「なんちゃって直貿」であり、すでに経済でもデジタルでも日本を抜かした先進国の中国や自家工場の手厚いサポートでのらりくらりとやっているだけ未だに危ない橋は商社に任せている。

 生産管理やものづくりというと、なぜか出て来るのが神戸の有名アパレルの名前である。きっと、その昔、いち早く自社グループに商事機能を作った経験があるからだろう。しかし、実態はひどいもので、この私が、そのさらに下請けの仕事をしていたぐらいだからお里は知れるというものである。本当にファッションアパレルが商品回転率を極限まであげて、人権問題も働き方改革もあった物じゃないようなドタバタ騒ぎに付き合ったことがあるのかとききたい。現場を経験した私から言わせれば、商社の体を張ったOEMとはレベルが違う。生産の細かいことは知ってはいるが、所詮は耳どしまで、彼らはたったサンプル4枚を取りに、パスポートも持たずにボーダーを超えるなど馬鹿げた仕事は絶対しない。実際アジアの奥地に入り込み、海外の人間をマネジメントしながら無茶な単納期にお付き合いするアパレル出身の人間はいない。私がZARAの計画生産と高い商品回転率がなぜ同期化するのかという謎に徹底して取り組んだのは、こうした事情があったからだ。

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記事執筆者

河合 拓 / 株式会社FRI & Company ltd.. 代表

株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)。The longreachgroup(投資ファンド)のマネジメントアドバイザを経て、最近はスタートアップ企業のIPO支援、DX戦略などアパレル産業以外に業務は拡大。会社のヴィジョンは小さな総合病院

著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「生き残るアパレル死ぬアパレル」「知らなきゃいけないアパレルの話」。メディア出演:「クローズアップ現代」「ABEMA TV」「海外向け衛星放送Bizbuzz Japan」「テレビ広島」「NHKニュース」。経済産業省有識者会議に出席し産業政策を提言。デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言

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