社長交代のしまむら 株価が暗示する、事業立て直しの切迫度と被買収のシナリオ

椎名則夫(アナリスト)
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株価は解散価値を下回る

 急な社長交代は、業績の伸び悩みが深刻化する前に素早く手を打つためであることには異論がないと思うが、筆者はそれに加えて、株式市場からのプレッシャーが高まったのではないかと考えている。

 しまむらの株式時価総額は現在約2800億円(2020年2月26日現在)で、日本の上場小売企業の中では27位にある。アパレル関連ではファーストリテイリング(6兆円)、ワークマン(6200億円)、ZOZO(5000億円)、良品計画(4500億円)に次ぐ位置づけと言え、決してポジションは悪くない。

 しかし問題は株価評価指標である。まず、株価を一株あたり純資産で割った株価純資産倍率(PBR)だが、しまむらの直近のPBRは0.77倍になる。この比率が1を割れる場合、株価が解散価値を下回るため、理屈の上では事業精算を迫られても不思議がないことになる。

2014年8月に公表された、伊藤邦雄一橋大学教授(当時)を座長とした、経済産業省の「『持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築~』プロジェクト」の最終報告書の通称で、ROEの目標水準を8%と掲げた。17年10月にはアップデート版にあたる「伊藤レポート2.0」が公開されている。
伊藤レポートとは2014年8月に公表(17年10月にアップデート版を公開)された、伊藤邦雄一橋大学教授(当時)を座長とした、「持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築~」プロジェクト(経済産業省)の最終報告書の通称で、ROEの目標水準を8%と掲げた。

 PBRの水準は、一般に当期利益を株主資本で割った株主資本利益率(ROE)と関連づけられることが多い。しまむらの場合、2019年2月期と2020年2月期会社予想のいずれの数値も4.5%程度にとどまるとみられ、2014年に公表されたいわゆる「伊藤レポート」が上場企業に求める8%という水準からは大きく解離している。

 したがって、株式を運用する運用会社から、ROE改善策とそれが達成できない場合の善後策について具体的な案を求められているはずだ。

買収対象リストに上がる可能性

 一歩進んで注目したい指標がEV/EBITDA倍率である。分子EVはエンタープライズ・バリュー(企業価値)を意味し、株式時価総額に有利子負債を足して現預金等を引いた金額である。一方、分母のEBITDAは利払い前・税引き前・減価償却前利益(Earnings before Interest, Taxes, Depreciation and Amortization)を指し、簡便的には営業利益に非現金費用である減価償却費とのれん等の償却費を足したもので、企業の営業キャッシュフローの代数になる。

 したがって、EV/EBITDA倍率は、企業の投下資本である有利子負債と株主資本を時価ベースに引き直して合算し、その合算値がその企業が現金ベースで稼ぐ力の何倍かを見る指標ということになる。

 ここで、現在のしまむらのEV/EBITDA倍率を見ると約3.4倍で、小売企業では群を抜いた低さである。ちなみに、手元資料によれば次点はドトール・日レスホールディングスの4.5倍、ついでアークスの4.7倍などで、しまむらの倍率の低さが際立つ。これは、しまむらを企業買収したい人にとって投資回収の早さを示す魅力的な指標に違いない(なお、同社はオペレーティングリースのうち解約不能のものに係る未経過リース料が2019年2月末現在339億円あるが、仮にこれを加味しても4.5倍程度になり引き続き低倍率である)。

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