勝ち組はSPAではなく「無在庫型」へ 2024年のアパレル、5つの受け入れ難い真実とは
真実5「SDGsを正しく理解する 日本のCO2排出量構成比はわずか3.2%」
最後はSDGsである。様々な企業がESG経営に取り組み、世界が手を取り合って一つの目標(SDGsに掲げられた17の目標)に向かって進む機運は高まってきた。私はそれはそれで、とても良いことだと思っているのだが、やはりここにも首をかしげざるを得ないことが何点かある。例えば、世界の二酸化炭素排出量をパイチャートでみると、一位は圧倒的に中国で、全体の32.1%を占める。日本はたったの3.2%である(出所:2020年JCCA世界の温室効果ガス排出量より)。
例えば、アパレル産業でいえば、99%はオフショア生産へシフトし、日本では総投入量の1%程度しか生産していない。
ここから見ても、我々がすべきことはポリバッグをマイバッグに替えること(もちろん小さな意識つけという意味では大事だ)以上に、これら中国、米国に対して何ができるのかということを考えることだと思う。
例えば、私はアパレル産業でいうなら、99%がオフショア生産で、こうしたパイチャートにでてこない二酸化炭素の排出量が日本企業の責任においてアジアで見受けられることになる。これをもって、例えば、ペットボトルのポリエステルのように、産業のゴミを繊維にして繊維産業へ集約させる今のやりかたはアップサイクルでもリユースでもない。ペットボトルを捨てるか、ペットボトルでつくったポリエステル繊維を捨てるかの違いしかない。捨てる形が変わっただけなのだ。
私は、この問題はもはや民間企業だけで成し遂げられるものではないと思っている。だから、年間10兆円とも言われる繊維製品輸入に課される15%程度の関税を下げる代わりに、人権デューディリジェンス、環境デューディリジェンスなどを日本発で出す案を提言しているわけだ。環境破壊第二位という汚名を与えられたアパレル産業は、もっと政府が介入すべきだと思う。例えば、自動車であれば燃費によってエコカー減税でエコカーを市場の変化をドライブしていったが、ならば、環境破壊第2位のアパレルは、例えばブリュードプロテインなどの真の意味でリサイクル可能な素材を使う場合、輸入関税を10%下げるなどの措置があってもよいはずだ。先日、某業界専門誌を読んだとき、ブリュードプロテインとウールを混紡した素材のニットを日本で5万円近い値段で販売していると報じていたが、ユニクロがウールの宝石と呼ばれるカシミヤを9000円で売っている今、そんなものに勝ち目はない。本物のカシミヤが9000円で、アクリルのような手触りのカシミヤライクな合成素材が50000円で、なぜ、人は高い方を買うのだろうかと私は思う。
米国では、地球環境を大事にするESG経営をすれば資本調達コストが下がり、ROEが高まるというが、これは二つの意味でクエスチョンマークだ。一つは、日本には文化としてノブレスオブリージュ(持てるものが持たざるものへ貢献するという文化)はないため、アングロサクソン文化をもって、自分のことで精一杯の日本人に期待するのは無理がある。もうひとつは、企業にせよ、人にせよ、方向性に矛盾する仕組み(売上をあげて成長し株価を上げることと、SDGsのように、過剰な売上を求めず成熟経済下で尊敬すべき企業となる矛盾)はシングルディレクションが基本である。
企業でも人でも、きっちり動かすためには二つの条件が必要だ。それは、「指示を一つに絞り込むこと」と「インセンティブをつけること」である。この二つの条件がそろってはじめて組織は動き出す。私は、この話を幾度も経産省に提言したのだが、結局は「税金は管轄外」と縦割り組織の論理で、規定だけを作る。インセンティブがないから誰もやらないの悪循環になるわけだ。今年の暖冬、灼熱の夏を思い出すと、本当に地球は大丈夫なのだろうか、と恐ろしさを通り越して絶望感さえ感じるほどだ。
さて、以上が2023年の論点であり、2024年も引き続きアパレル産業にとって重要なポイントとなるイシューである。ぜひ、24年はこうした本質的な解決をアパレル産業自らが先導役となり、見本や手本を見せられるようになることを切に祈っている。
2024年もどうぞよろしくおねがいします。
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プロフィール
株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。
著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「
筆者へのコンタクト
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