株価が1年半で約3倍に!パルグループ好調の秘密と抱える5つの課題の解決策とは
課題4.デジタル戦略
会社取り組み:当社は、コロナ禍で実店舗が停滞する中、ECの売上比率は現在38%にまで高まっている。自社ECサイトでは、すべての自社ブランド商品を購入でき、同アプリ会員数は900万人を超え(2023年2月現在)た。店舗スタッフ発信のSNS(フォロワー総計は950万人以上)で顧客を実店舗とECの双方に誘導し、顧客データの蓄積、LTV(顧客生涯価値)向上を進める。
コロナ禍で実店舗が稼働していない時期、インスタライブを通じて販売スタッフがコーディネート提案や新商品の紹介を視聴者の質問に答えながら実施、商品開発や生産量の調整に生かしている。このプログラムは、2022年には全ブランド合計で230回に及び、多い時で一度に1,500人のお客が視聴、EC売上の伸長に寄与した。
河合分析&提案:この職場討議活動はすばらしい。企業とは全従業員の70%が改革に参加すれば、必ず変わると言われるが、口だけでなくしっかりコミットをしてワイワイと楽しくやるのがコツだ。一つ留意していただきたいこととして、LTV、CPA、CRMなどのワードがでているが、人口減少と市場縮小が加速する中、MD、商品回転率、商品粗利などの商品軸であるKPIを使い続けるのは自殺行為だ。だからといって上記の「通販用語」ではなく、顧客を個人単位で追いかけ、最後は自社のファン、そして、そのファンの買い回り情報までデータストックをすることを考え、KPIとしてほしい。それができれば、MDの代わりにもなりえる。
MDとは日本語で「商品」である。その商品の動向から将来を予測しても、ユニクロやZARA、シーインなどが似た服を激安で販売すればひとたまりもないし、服などは、特にローエンドプライシングにいけばゆくほどグローバル化、標準化、似たもののオンパレードになってゆく。今のMZ世代は「価格は正義」であるが、ここで自社も根拠なく価格を下げれば一発でジ・エンドだ。実は、これがAI による未来予測ができない理由なのだが、常に我々消費者は必要としている倍の供給量の中に囲まれ、まだ8月なのに秋冬が売られセールが終わっているほど見切り発車が過ぎる。この世界に足を踏み入れるのも戦略なのだが、みなが同じことをするから、あえてQRをとっていないユニクロが突き抜けて世界一になるのだ。
課題5 サステナビリティ経営
会社取り組み:2019年にサステナビリティ委員会を設置、全社横断組織としてサステナビリティ体制を推進する組織を作り、「環境」と「人権」の2つのテーマから課題を抽出し、優先順位を決め取り組んでいる。環境負荷の軽減では、これまでに、店舗照明のLED化、「サプライヤー行動規範」を定めて責任ある調達体制の確立、環境負荷に配慮した商品開発などを行っている。人権尊重の取組みでは、「サプライヤー行動規範」のほか、「パルグループ人権方針」を制定し、人権啓発に取り組んでいる。
河合分析&提案:この領域については、現段階では見えていないところが多い。拙著「知らなきゃ行けないアパレルの話」の帯に、「ユニクロは世界一の売上となり、欧州アパレルはゲームチェンジを行うだろう」と書いた。今、もっとも有力視されているのが、Higg indexなのだが、しかし、今年のこの異常な暑さを前にもっと強烈なプレッシャーを欧州は掛けてくるだろう。
もちろん日本の最大のお客は米国と中国だ。この巨大環境破壊二大国家がそもそもSDGsを代理戦争のように持ち出して「どっちの味方だ?」とすごんでくるのだからたちが悪い。
日本の国際経済力は、枯れているとはいえ、まだまだ海外純資産世界一の金持ち国家であることには変わらず高いわけだから、そう単純にこの戦争に巻き込まれることはないとは思うが、こればかりは見通せない。今のように米国Amazon、欧州H&M、ZARAなどが、みなバラバラの基準値をもっていて、ここに中国が加わればいっそうSDGs対応は難しくなる。日本はデジタル競争でも、新しい基準作りでも後塵を拝している。
その意味では、日本がお得意とする「勝ち馬に乗る」戦略も大局的に見れば正しいのかもしれない。今のところ、世界的に影響力があり、政治ゲームはなく本気で人類の未来を見据えた企業基準のようなものができ、ERPかPLMに実装されるまでまつのが最も賢明といえそうだ。
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プロフィール
河合 拓(経営コンサルタント)
株式会社FRI & Company ltd..代表(2023年8月1日に社名を河合拓コンサルティング株式会社より変更)Arthur D Little, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナーなど、世界企業のマネジメントを歴任。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)。最近ではAI企業、金管楽器メーカー、中国企業などのスタートアップ企業のIPO支援などアパレル産業以外にクライアントは広がっている。座右の銘は生涯現役。現在は慈悲で大学院で経営学の、独学で英語の学び直しを行っている。
著作「ブランドで競争する技術」「生き残るアパレル死ぬアパレル」「知らなきゃいけないアパレルの話」。メディア出演:「クローズアップ現代」「ABEMA TV」「海外向け衛星放送サテライトTV」「テレビ広島」「NHKニュース」。経済産業省有識者会議にたびたび出席し産業政策を提出。デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言
筆者へのコンタクト
https://takukawai.com/contact/
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