世界でアパレル不況が同時に起きた本当の理由と勝ち残りの道
SNSが変えた社会とプロパー消化率低減の関係
最後に、最大の論点である、アパレル企業の多くが誤解している、冒頭に書いた世界的アパレル業界の不振の原因であるプロパー消化率低減の理由を書こう。EC化による世界観の消失と単品勝負によるブランド価値毀損に加え、なぜ、世界的にプロパー消化率が50%以上も落ちてきたのか。それは、単に市場規模以上の投入在庫を安売りし、叩き売っていることだけが原因なのだろうか。私の分析で本論を締めくくりたい。多少前置きが長くなるが、ストンと腹落ちするためにわかりやすい例をいくつか入れたので、読み進めてほしい。
今、アパレル企業のプロパー消化率は業界全体で40%程度といわれている。この理由は、「デジタル化によるネットワークの拡大」が原因である。
家、学校、会社が私たちの世界の全てであり、転職など考えもつかなかった時代、そこで形成された価値観が私たちの価値観だった。逆に言えば、私たちは内なる自己を押さえ、家、学校、会社というコミュニティに順応することを求められ、出る杭は打たれたのである。実際、私は、学校では先生に反抗ばかりしていたし、会社でもいつも一緒に同じメンバーとランチを食べることが嫌で仕方なかったが、そういうしきたりだった。
しかし、そんな私が自我を解き放つきっかけとなったのがインターネットだった。1995年にWindows95が登場し、世界中の人とリアルタイムに繋がった。私が最も衝撃を受けたのは、今まで親、先生、上司から「お前のそういうところを直せ!」と怒られてきたことが、ネットの世界では「異常なのは批判するほうで、お前は正しい」と賛同してくれる人と出会えることだった。思い切り自分の考えをネットの広大な世界の中で叫び、世界中の人達と繋がり自我の確立ができたわけだ。
metamorworks/istock
実際、通販事業再生を務めていた私が競合分析をしていたとき、当時多くの通販企業は「女性は20代はデート着、30代は育児・部屋着、そして、40代以降はジャージのホームウエア」という具合に商品を編成していた。また、誰もがサラリーマン仕事をしていたので、実際に世界観をつくっていた女性や働いていた社員(大多数が女性)もおかしいと感じていなかったのが不思議だった。旧来型のカタログ編成が間違っていたことは、分かっていたが、主張に客観性を持たせるため消費者調査を行った。そこでは、20代から50代に至る女性のほとんどが仕事着を求め、30代は一旦高級品となるが、その後、結婚、育児などを経て、50代では子育てから解放され、再び女性らしい輝きを求め自分磨きに金をかける。間違いなく、ターゲットは4-50代だった。そんなときに表れそのセグメントをかっさらっていったのがマーケティングの天才・林恵子率いるDo Classeだった。どの通販も、Do Classeの快進撃を分析し、「通販は安もの」という位置づけから、高級通販に、そして、ターゲットを実年齢50歳以上に変えていった。
この戦略に大成功したのがdinosのDAMAである。こうした分析を経て、私もクライアントの大きなリブランディングをし顧客離脱を食い止めた経験がある。
こうした市場の大多数を占める女性の(マーケティング用語でいうところの)クラスター、つまり同一購買特性を持った集団は、日本中、そして、世界中に散らばっているものの仮想空間で繋がっているのだ。お母さんに、「女性はほどほどに欲なく生きて、金持ちで優しい男性と結婚し家庭に入りなさい」などといっても、今は、女性のほうが遙かに優秀で、アジアでは世界をまたにかけて仕事をしている管理職の多くは女性だし、PLMのユニクロ担当者も複数語を自由に操る中国の女性だ。私の前職Kurt Salmonの香港トップも女性で、二人の英語力は信じられないほどだ。最初お会いしたとき、その流ちょうな英語に「アメリカ人か」と思ったぐらいだった。同時に、LGBTや米国で再燃しているアジア人差別問題など、従来マイノリティといわれていた人たちが堂々と権利主張できる社会背景ができあがった。
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