酒類宅配を積極展開、業務用市場でシェア50%をめざす=カクヤス 佐藤順一 社長

聞き手:下田健司
構成:田中 浩介
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受注から配達までの仕組みを自前で構築

──一般向けの市場については、どのように見ていますか。

佐藤 東京都内の一般向けの酒類市場は約3000億円で、そのうち宅配が約15%、約450億円を占めるとみています。当社の東京都内の一般向け宅配の売上高は約200億円なので、すでに約45%のシェアがあります。

 しかし、食品スーパーや総合スーパーがネットスーパーのサービス提供地域を広げたり、アマゾン ジャパン(東京都/ジャスパー・チャン社長)や楽天(東京都/三木谷浩史会長兼社長)をはじめとするEコマース(ネット通販)企業が台頭したりするなど、競争がこれまで以上に厳しくなっています。そのため、これ以上のシェアアップを図ることは難しくなるでしょう。

──Eコマース企業などの競合とはどのように差別化を図りますか。

佐藤 宅配のネックとなるのは、コストがかかることです。しかし、受注から配送に至るまでの業務をアウトソーシングせず、自社でその仕組みを構築してきたことが最大の差別化要因になっています。

 当社の強みは、自社の従業員が1時間枠で、ビール1本からお届けできることにあります。電話やファックス、パソコンなどさまざまなチャネルからの注文を迅速に処理する必要があるため、04年には自社のコールセンターを設置しました。これにより、配送拠点となる店舗へ素早く受注データを伝えることが可能になりました。

 また、お届け時にお客さまから「いつもこれ買っているけど、なにか新しい商品ある?」と聞かれた際、新商品をお勧めしたり、サンプルを提供できたりするのは酒類販売の世界においても当社だけでしょう。当社にとっては、お客さまの玄関はお届け先ではなく、売場そのものです。

 お客さまの要望に応じた商品をお勧めすることで、宅配サービスをさらに充実させることができます。

 そして、自前で商品を届けることができるのが、宅配業者などが商品を届けるネットスーパーやEコマース企業の通販と決定的に異なる点だと思います。

──今後の出店戦略については、どのように考えていますか。

佐藤 宅配機能を持つ「なんでも酒やカクヤス」は、店舗から半径1.2kmの範囲内に商品をお届けしています。07年までに、ほぼ東京23区内全域で無料宅配をする体制が整いました。

 しかしながら、東京23区から少し離れると飲食店の数が格段に少なくなります。ですから、「なんでも酒やカクヤス」を展開するとすれば、あとは神奈川県の横浜市と川崎市、大阪府くらいでしょう。大阪府内にはすでに8店舗を展開しており、売上規模が100億円に達しました。

 当社は「なんでも酒やカクヤス」のほかにも、宅配機能を持たない「KYリカー」を神奈川県を中心に展開しています。KYリカーは豊富な品揃えを特徴としており、約6000SKUを扱っています。これまでKYリカーの出店地域は一般のお客さまの多い住宅街が多かったのですが、業務用の需要を取り込むために飲食店の多い繁華街への出店にシフトしていきます。埼玉県や千葉県にも店舗網を広げたいと考えています。

──物流インフラの整備についてはどのように取り組みますか。

佐藤 15年11月1日には、東京都板橋区の物流センターを稼働させました。現在、東京都内には8カ所の物流センターがあるのですが、宅配の売上が10%増えるごとに、新たなセンターが1つ必要になると考えています。

 われわれは基本的に、物流センターを東京23区内に構えるようにしています。一般論としては、土地代が安い郊外に、巨大なセンターをつくるのが定石なのですが、当社は必要最低限の大きさや機能を持ったセンターを東京23区内に開設しています。

 なぜなら、お客さまからの距離の近い都心部にあったほうが、機動的なデリバリーサービスを提供できるからです。センターから池袋や新宿といった繁華街までの距離を短くすることで、こうした繁華街に立地する得意先を午前と午後の1日2回訪問できるようにしています。

 

──宅配ビジネスを収益化するポイントは何ですか。

佐藤 宅配ビジネスは客単価を高めるとともに、配達件数を増やしていかないと黒字化は難しいでしょう。当社の場合、客単価5000円で、1日2万件を配達しないと利益が出ません。黒字化するまでには苦労の連続でした。

 当社が酒類販売制度の規制緩和による競争激化を見越して、一般向けの宅配事業を強化し始めたのが2000年のことです。店舗を拠点に、東京23区内であれば、どこでも、何本からでも、2時間以内に無料で配達する体制の構築に乗り出しました。03年には東京23区内のほぼ全域に商品をお届けできるようになりました。

 その後、業務用の宅配に力を入れ始めました。現在、一般向けの1日の配達件数は1万4000件、業務用は2万5000件です。一般向けの宅配事業のみであれば、現在も黒字化していなかったかもしれません。これまで業務用のマーケットを積極的に取り込んできたことが、現在の成長につながっています。

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