従来のやり方は通用しない「脱・スーパー」が生きる道=さえきセルバHD 佐伯 行彦 社長

聞き手:下田健司
構成:リテイルライター:太田美和子
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ネットスーパーより宅配サービス

──近年、ネット消費が拡大しています。SMでもネットスーパーのサービスを拡大しています。ネットスーパーについては、どのように考えていますか。

佐伯 15年ほど前に、当社の200坪、300坪の店舗で、大型店舗並みの在庫が持てるのではないかと考え、ネットを活用した商品販売を検討してみたことがありました。しかし、人的パワーがなかったこともあって実現はしませんでした。

 ネット販売に適した商品とそうでない商品があると思いますが、ネットでの販売は今後も伸びるでしょう。

 しかし、われわれの企業規模から考えて、今のところネットスーパーのサービスを導入することは考えていません。

 その代わり、宅配サービスを手がけています。さえきは青果商出身です。青果商のころは、世帯人数が多く、箱単位で購入される商品を配達するのが当たり前でした。世帯人数が減った今も自前の小型軽トラックを午後2便走らせ、自宅まで配達するサービスを実施しています。お客さまは来店して、自分の目で見て、手で触れて、商品を購入し、あとは自宅まで運んでもらうのです。所定の購入金額以上で配達料が無料になるサービスです。

 このサービスは高齢のお客さまに適しています。現在、日本の高齢者人口は2000万人(70歳以上)を超えています。その大半は元気で活動的な高齢者です。今後どうなるかはわかりませんが、現在の高齢者の実態に宅配サービスは合っていると感じています。

消耗戦に入るSM業界 淘汰・再編は必至

──さて、セルバと経営統合して1年が経過しました。この1年をどう振り返りますか。

佐伯 経営統合のメリットを急いで追求すべきではないと考えています。

 さえきの創業は1979年、セルバの創業は83年。それぞれ30年以上の歴史があります。以前から両社には交流があり、良好な関係にありましたが、企業文化には違いがあります。互いのトップ同士は、それぞれの文化を理解していますが、現場の従業員はそうではありません。ですから、従業員同士の文化のすり合わせを1年かけてやってきました。また、会社によって規定や基準も異なります。経営統合時に発表したとおり、そういった微妙な相違を1年間かけてすり合わせてきました。

 現場の従業員同士の「顔合わせ」、「心合わせ」を行って、よい人間関係をつくっていく。そして、「力合わせ」を行う。ゆっくりと着実にいいものをつくっていこうというのが互いの考え方ですので、慌てず、急がず、けれど休まずに、統合を進めていきたいと考えています。

──さえきセルバHDは、SMの業界再編の、受け皿のひとつとして今後、さらにM&A(合併・買収)を進める考えですか。

佐伯 HDは、経営状態の厳しい会社を仲間に入れて再生してきた10年の歴史がありますから、客観的にはそう見られるかもしれません。確かにプラットホームはできましたが、今後さらにM&Aを行うか否かは、われわれの能力次第でしょう。

 SM業界は、コンビニエンスストア(CVS)業界、百貨店業界などと比べて、再編が一番遅れている業界です。CVSは大手3社、百貨店は大手5社ですが、SM業界は、ほとんどの企業が独立系の中堅・中小です。消費市場がこれから縮小していく中で、SM業界はこれから消耗戦に入ってきます。店舗閉鎖や企業淘汰が増えていくでしょう。

 ただ、M&Aは企業同士の政策の相性が大切です。成長戦略を推し進めるといっても、決して無理な成長をするつもりはありません。「売上規模が1000億円ないと生き残れない」などとよく言われますが、いくら売上規模が大きくても、売れない店が多かったら赤字が膨らむだけです。表面的な売上規模より内容が重要です。内容をよくするためにはSMとしての価値を提供し、お客さまの信頼を得て、売上と利益のバランスをとっていかなくてはなりません。

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