アフターコロナのアパレル業界はこうなる 世界一のユニクロに待ち受ける試練
世界一となったユニクロの敵と柳井氏に迫る「トップ継承問題」
2月第3週、大きなニュースが業界を駆け巡った。ユニクロを展開するファーストリテイリングが時価総額でZARA(社名:インディテックス)を抜き、世界一になったことだろう。GAFAMと呼ばれる米国のプラットフォーマーが、もはや敵がいない状況になったということを考えれば、これまで「でかくなることが正義、売上の大小が企業の優劣である」という、従来の成長経済下の中でしか成立しえなかった考え方は行き詰まることになる。時価総額世界一になった同社を、もっとも動揺させているのは同社自身ではないかと思う。世界一となった同社は大きな舵取りの変化を求められる。私は、いよいよ柳井氏に変わるトップが現れる時も間近だと思う。
一説によれば、アパレル業界は全産業の中で二番目に環境を破壊する産業らしい。航空機業界や自動車業界と肩を並べる、いや、それ以上というのだから驚きだが、考えれば、当たり前である。地球の中で衣料品を着ていない人間は、ごく少数をのぞいていない。45億人の装い、そして、その装いを工業製品として生産するのであればなんの不思議もない。
しかし、私は、「アパレル=環境破壊」というロジックの裏には、小学校などの「集団いじめ」と同じ構造を見る。この手の論調は、必ず分母は45億人で、解決案は、もはや産業としては消滅しかかっている日本の京都の草木染め、あるいは、岡山デニムの藍染めなどだからだ。先週も解説したが、全人類の、しかも、ファーイーストの総消費量の3%以下となった、さらに地方の伝統工芸が、45億の民の装いを生産する経済活動の解決案のはずがない。驚くことに有名なコンサルタントがこういえば、知的な人間まで「そうか」と納得し、アパレル自虐に陥ってくる。恐ろしい話だ。
経済が停滞し国力が劣後すれば、必ずナショナリズムが勃興するのは歴史が証明している。日本の伝統工芸が救世主だというと、どんよりした空気が晴れ渡る気分になる。ここに私は、非常に怖い危機感を感じている。
問題解決とは、解決したい最終目的に対する影響力を分析し、影響度合いの大きなところから手を打つのが常道だ。桁の数が星の数ほど違うものを比較し、京都の草木染めの紹介をするぐらいなら、時価総額一位になったユニクロに生産環境破壊税などの税をかけ、これ以上大量生産をできないようにするほうがよほどよいはずだ。もちろんこれはユニクロを規制しようという意図があるわけではなく、あくまで問題解決の視点で述べている。草木染めよりもよほど効果があるからだ。私は、本質的に人間というものは、その存在と経済活動そのものが環境破壊であり、環境にもっともよいのは人類が消滅することだと思っている。もちろん、そんなことができるはずもない。だから、環境を破壊する「程度」を和らげるための政策を採用する。
また、今は特に先進国において人が必要以上の服を生産しているのだから、そもそも必要以上の生産を半減するなど、私が提唱する「二次流通市場の形成」や「受注生産」を自動車産業のように、環境税などと同時に採用すべきではないか。それをしないのは、大人の事情なのかもしれないが、情報過多の時代だからこそ、我々はデジタルリテラシー以上にメディアリテラシーを持つべきなのだ。草木染めや藍染めは素晴らしい伝統工芸だが、そんなもので問題は解決しない。
このように、アパレル業界は、なぜか昔から「言われっぱなし」で、声を上げない。繊維産業は、未だに輸入関税がある前近代的な産業であるということを知っている人は少ないし(なかには、輸入品は等しくすべて関税があるとおもっている人間もいるほどだ)、実は、アジア各国を見ると、繊維製品には必ずといってよいほど輸入税をかけている保護産業なのだ。
これは理由があって、国というものが経済発展を成し遂げるとき、かつては、繊維、テキスタイル産業の衣料品用途からはじまり、やがて産業は金融やデジタルなどのハイテク産業に移行して生産性をあげてきたからである。繊維産業は国が発展するためのスタート産業なのである。さらに、加えてTQC(輸入枠)や暫定八条※など、独特の流通形態が加わり、国家間を超える流通に暗黙の了解ができあがる。結果、途上国が生産をし、先進国が消費をするという構図が、欧州、アジア、米国で例外なくおきるわけだ。
※国内から原材料を送り、海外で加工した後国内に輸入する際に、一定条件を満たせば関税を軽減できる制度のこと。通称、「暫八」
アジアと欧米では人間の骨格も違う。だから、リテール事業だけは欧州、米国、アジアなどに分類され、その中でファッションを牽引する国が産業を引っ張ってきた。アジアでは、それが日本だった。しかし、もはや韓国にその座は奪われかけているように思う。唯一の例外企業であるユニクも、拡大以外の正義を見いだし方向転換しなければならないし、それは、同社の過去の進撃と勢いを見れば、相当困難なことではないかと思う。
ユニクロの +J をみれば、色々なことが見えてくる。今、同社のHPで売れ残っている商品はドレスの布帛だけだ。+Jが復活したとき、サーバがダウンするほどの賑わいをみせ、ニット、ジャージは即日完売だった。しかし、秋冬をこえて翌春になっても布帛は売れ残っている。コロナは、時計の針を早めただけで、いずれ、毎朝9時に大手町に集合するという非効率な仕事のやり方はなくなるだろうし、そうなれば、毎日クリーニングできないドレスシャツやスーツなども着なくなるのは必然なのだ。人は毎日自宅で水洗いできるジャージやニットと綿パンツ、そして、スニーカーで働き、自宅がオフィスとなる。実際、大手デジタル企業の富士通は、そのような方向に方向転換し、オフィスの無駄なスペースを無くしている。ユニクロの+Jで、ドレス布帛だけが残っているのはそういう意味だ。
もう一つ、なぜユニクロの+Jにあれだけ人が殺到したのか。ユニクロ的なベーシック衣料に飽きていて、派手なその他のアパレルの衣料品で着飾る気分にはなれない、またユニクロにプラスαのものを求めている層が多分にいるということだ。だから、私は、アパレルが本当のSPA(製造小売業)になり、流通を短縮化し無駄をデジタルで廃止し世界レベルのコスパを実現すれば、いくらでも勝算はあると思っている。実際、ユニクロは値段を上げてきていることに消費者は気づいている。今、ユニクロでお買い物をすれば、昔のように節操なく買い物かごに放り込めば、3万円を超えることも普通になってきた。昔であれば、「1万円以内」が普通だったが、今は、その価格帯はguに任せている。ユニクロはデザイン性を取り入れ、我々が気づかないよう上代をあげている。
日本のアパレルもニューノーマルの時代の中で、人の新たな装い(カジュアルウエア)やビジネスモデル(二次流通市場の形成)の提案を図るべきだろう。そして、それが、新しい時代のブランドになる。
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