アフターコロナのアパレル業界はこうなる 世界一のユニクロに待ち受ける試練、百貨店は100店舗時代へ

河合 拓
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プラットフォーマーとして「東のオンワード、西のワールド」の第2ラウンドが始まる

 ユニクロ以外のアパレルに目を向けると、ニューノーマルの時代、日本の経済を牽引してきた商社繊維部門は静かに縮小するだろう。日本の衣料品の上代は異常である。海外にいけば、衣料品の価格はユニクロでも高価だ。これは、日本独自の「長く無駄な流通構造」に原因がある。

 あえていえば、日本のお家芸である合繊繊維の非衣料領域の輸出は、途上国の成長と比例して残るだろうが、今までのようなOEMは、商社からスピンアウトした個人によりハンドリングされるか力のないアパレルが専門商社を使い、わずかにオペレーションを続けることになる。

 SPAという言葉が誕生して久しいが、現実問題として「製造」と「小売」は、ユニクロを除いて、依然分離したままである。今後の総合商社の繊維部門はカーブアウト(本体からの切り離し)が進むだろうし、専門商社は規模を縮小しアパレルと垂直統合することになると思う2月26日オンワードホールディングスはサンマリノへの出資とPLM導入、プラットフォーム化を宣言した)。特に、自社からイノベーションが生まれにくくなってきた大組織は、商社機能と生産機能を取り込み、製販統合が完成したアパレル企業は「プラットフォーム争奪戦」を繰り広げることになる。

 商社生き残りの最後の戦略であった「デジタルSPA」も、スポーツ衣料とブランドビジネスに特化した伊藤忠商事などを除き、商社からそのノウハウはアパレル企業へ移管されることになる。ワールドやオンワードが次世代のプラットフォーマーに近づくことになる。まさに東のオンワード、西のワールド第2ラウンドが始まるわけだ。

オンワード樫山は不採算600店舗を閉鎖する。写真は唯一と言えるかもしれない、好調で推移するKASHIYAMA the Smart Tailorだが、全体業績を持ち上げる規模では到底ない
オンワードとワールドは今後、プラットフォーマーの座を巡り戦いを繰り広げることになる

プラットフォームは2種類へ

 こうしてできあがる「プラットフォーマー」には、二種類あって、一つは生産・調達管理業務、あるいはEC業務を、GMSや百貨店のPBに展開するということだ。GMSや百貨店は、過去、幾度もECや自主化を図ったがうまくいったためしがない。いずれ、楽天やアマゾンが空中戦は企業買収をしかけ、楽天貨幣、Amazon貨幣をつかった経済圏を構築すべく、地上戦に降りてくる。

 もう一つのプラットフォームは、投資業務である。所詮自社には売るモノはないと割り切り、金融ビジネス、デベビジネスに移行する戦略だ。日本という国で果たして世界化できるようなアパレルビジネスがでてくるのかという疑問もある。むしろ、今のように小粒なアパレル企業が出ては消え、消えては出てくる泡のようなものと割り切り、例えは良くないが生まれたブランドを飽きられたら安楽死させる技術が第二のプラットフォームだ。

 飽きっぽい消費者も、国民服となったユニクロは毎年のように買うが、それ以外は、毎年お気に入りのブランドは変化する。だから、日本ではサステイナブルな巨大アパレルは現れないという考え方だ。もし、その仮説が正しければ、いっそ、アパレル企業は金融・投資事業に軸足をうつし、いわゆるD2Cと呼ばれる(私は、この言葉が嫌いだが)小粒な企業のインキュベーションに徹するのも一案だ。

最も大きく変わるのがMD業務

 デジタル技術によりMD業務も大きく変わる。同質化が叫ばれるアパレルビジネスで、しっかりと素材から開発し世界化と似た小粒なブランド群を統合しなければ、産業効率が悪いアパレルビジネスは苦戦する。

 拙著「ブランドで競争する技術」(ダイヤモンド社 2012年)では、「出島理論」として、旧来型のビジネスと、新しいビジネスを併存させ、徐々に後者に移行する案を提唱しているが、どこまで本気でやりきろうとしているのかは不明だ。例えば、私は前稿でDigital MDという概念を提唱し、過去の趨勢から顧客無視で商品調達をし、センター倉庫からビッグデータを使って売りつける、という押し売りのような現在の業務フローが、余剰在庫を生み出しアパレル企業の収益化を阻害していることを説明した。大量生産、大量消費を前提としたビジネスモデルが背景にあることを理解してほしい。

 これに対し、Digital MDとは、商品計画という概念をなくし、ビッグデータから個人の購買動向をAIなどによって解析し、膨大な個人の購買動向から商品計画を予測するという、デジタル製販統合商品計画である。顧客データと商品データは有機的に結びつき、個客の動きから商品調達の動きを解析すべきなのだ。あまりに変数が多い将来予想を行うより、もっと現実解に目を向けるべきである。

 ユニクロを仮想敵と想定し、同社との競争戦略を語ってきた私だが、もはやユニクロに勝てるアパレル企業は日本には存在しない。したがって、私の提案は「勝ちの定義」を変え、売上の大きさが勝敗を決めるという過去の価値観から脱却し、ナンバー1でなく、ある特定のビジネスでオンリー1を実現する、という大胆な方向転換である。

 そこでは、「売上」という過去の計測手法では勝敗は決まらない。その代わり、例えば在庫破棄がない、二次流通と受注生産を組み合わせ、環境にやさしい、あるいは、わずかに残された工場に出資をし、日本製を打ち出すなど、独自の指標をもって高い利益率でオンリー1となるなどである。そのためには、私が提唱するデジタル技術を活用したZARA型 MDを導入すべきだ。

 また、思い切ったアパレルは、M&A (企業買収) によって、弱った企業を買収し自社ブランドとの融合を図っている(日経新聞によれば、すでに日本アパレルの調達は前年比の70%を割りこみ、C2Cと呼ばれる消費者同士の売買が1.5兆円を超えており、過剰生産はなくなり、余剰在庫はユニクロやワークマンなどとの競争負けの結果、発生している)。

 その結果、皮肉なことだが、産業全体の過剰生産の適正化が起きることになるだろう。幾度かのべたように、多くのアパレルは財務的に相当弱っており、また、バブル時代から君臨していた経営者達も次々と去って行った。カリスマ経営の温床といわれたアパレル企業は、この高い株高の時代においても、一部の企業を除いて割安である。当然ながら、こうした状況も、企業買収を加速させることになり、企業の統合・再編が起きることになる。本来は、企業の戦略主体で解決すべき業界課題が、「神の見えざる手」によって資本主義の誘う場所に追いやられるわけだ。

 

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