ZARAが実践、知らぬは日本企業だけ…アパレルの新常識「リードタイムは長くて良い」
QRのドタバタ騒ぎはデジタルでは解決できない
私は、この仮説を実証するため、3回転させていたQRのプロパー消化率を計測したことがある。もし、QRが正しければ、作り増しをすればするほど消化は上がるはずだが、結果は真逆だった。同じ商品を作ればつくるほど消化率は下がる。トレンド商品ならなおさらだ。生産はどれだけ頑張っても2-3週間はかかる。3回転もすれば計測期間をいれれば3ヶ月ということになり、ZARA型12回転MDの前では、「2シーズン遅れ」の商品になるからだ。商品回転率と売上・利益に相関性がないことは、ユニクロと他のアパレルの比較分析でも明らかだ。いくつかのアナリストが商品回転率の比較をしているが、時価総額境一位に近づいたユニクロはいつも回転率では負けている(ように見える)。
このように、我々はなんとなく「リードタイムが短いことは良いことだ」という論理的整合性が見えない理屈を盲信し、ドタバタ騒ぎを繰り返し、粗悪品でシーズン遅れの商品を投入していることになる。
交差比率を高める必要は無い。なぜなら、交差比率向上の目的はキャッシュフローだからだ。キャッシュフローを良化させればよいのなら、今は倉庫業者が在庫流動化サービスをしているし、なければ金融機関や商社とそのような話をすれば良い。商社を外して粗利を稼ごうと考える前に、このようにマーチャンダイジング全体を立体的に見て、商社金融を賢く使えばリードタイムは長くとも、トレンド・ターンオーバーは12回転させることが可能となる。
上記のようなドタバタ騒ぎはデジタル化で解決できるものではない。アパレルと商社がバリューチェーン全体の最適化について、深い議論を交わし、現場で起きている実態を確認して共同で解決策を考えるべきだ。今、商社に必要なのはトップ営業であり、こうした高度業務をアパレル企業と双方の利益が出るような形でデザインする力である。
最後に、私はムダな会議や意味の無い資料、全く意思決定をしない経営など、こうしたダラダラ仕事の結果生まれるリードタイムの長期化を肯定しているのではない。こうしたダラダラ仕事は、デジタル化によって正しい情報を瞬時に見ることができる経営のダッシュボードやPLMなどを活用して、人間がやっていた仕事を自動化させるなどし、可能な限り迅速にすべきである。しかし、論理力の弱い人は、スピードそのものが目的となり、上記のようなドタバタ騒ぎに発展する。
私が本稿で申し上げたいのは、専門用語で「企画限界値」というのだが、しっかりした完成度の高い商品をつくってゆくために必要なリードタイムはしっかりとれ、ということなのだ。また、昔の教科書はもはや嘘だらけだ。世の中と競争環境をしっかり見、自分の頭で考えて解を見いだす力が必要なのである。
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プロフィール
河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)
ブランド再生、マーケティング戦略など実績多数。国内外のプライベートエクイティファンドに対しての投資アドバイザリ業務、事業評価(ビジネスデューディリジェンス)、事業提携交渉支援、M&A戦略、製品市場戦略など経験豊富。百貨店向けプライベートブランド開発では同社のPBを最高益につなげ、大手レストランチェーン、GMS再生などの実績も多数。東証一部上場企業の社外取締役(~2016年5月まで)
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