キーワードは“大きなD2C”とサステナブル…2021年のアパレル業界はこう変わる
2021年 企業は競争から協創へ
ポスト資本主義時代の幕開け
アパレル企業は、徐々に競争関係から協創関係へステージを移している。そこには、もはや競争に打ち勝ち、競争相手は潰してでも自社の企業価値を上げるという資本主義メカニズムは働かない。必要とあれば非公開化をおこない、資本市場から出ることも企業の重要な打ち手の一つになる。多くの企業は選択と集中を行う結果、アパレル事業はシナジーが見いだせなければカーヴアウト(企業の中から事業部を切り離す金融用語)されることもある。2021年は、こうしたファンド・プレイも増えるだろう。リスク・マネーを怖がっていては、新しい世界は見えてこない。異なる企業群が手を結び、全く新しい事業を創り新聞紙面を飾ることに期待したい。
最後に、私が個人的な興味から研究している、イギリスで発展した官民協業によるケースから得た学びを共有したい。例えば、イギリスで発達したPFI (Private finance initiative 公的機関に民間の事業推進力を組み合わせる形態)のような形態は、今後日本でも増える可能性が高い。「神の見えざる手」は、弱体化してきた産業を破滅にしか導かない。実際、世界に誇る日本の繊維技術は日本から消えつつあり、今になって、「さあMade in Japanだ、日本の工場はどこにある?」と、焼け野原となった日本の生産拠点を探している始末である。
生活協同組合、いわゆる生協は、投資家が存在しない代わりに消費者が出資を行うもので、消費者であると同時にオーナーでもあるという形態で、これもイギリスに端を発している。私も一時期、生活協同組合の仕事をしていたが、野菜が不作になって高騰しても生協の野菜だけは価格を変えなかった時期があった。
かくいう私も、今、公的機関から日本の地場産業のブランド化を手伝う仕事を引き受け、税金がムダにならないよう必死になっているし、公的機関のビジネススクールで次世代のアパレル産業のリーダー育成を手がけている。これらは、すべて民間企業の論理ではなく、理念先行型のビジネスだ。こうした取り組みを通して日々考えるのは、我々日本人が選択するポスト資本主義の世界観である。今、企業再生の仕事は、単にオペレーションを変えるとか資金を注入するなどという話でなく、企業のあり方の再定義をするところから検討が必要なのだ。アパレル産業も、こうした「そもそも論」から自らのあり方を検討すべきときだろう。
私は、日本のアパレル業界が世界化できず弱体化した最大の原因は、こうした骨太な哲学から想起される人の生活提案が見えなかったから、あるいは、未だにバブル時代のきらびやかなギラギラ・ファッションをユニクロのベーシック衣料の対立軸で見ているからではないかという仮説を持っている。YouTubeをみれば購読者が10万を超えるファッションバイヤーでユーチューバーのMB氏がユニクロファッションの良さを語り、ブログをみればユニクロばかりが取り上げられている時代なのだ。成熟した社会では、服など自分を表現する一部品にしか過ぎずユニクロで十分ということを多くのファション業界人は理解していないのだ。
以上、2021年の変化とその裏のメカニズム、そして、生き残のためのコンセプトを書いた。新型コロナウイルスも収束し、今年こそオリンピックを東京で開催し、暗い世の中を払拭して欲しい。そしてこの危機を一緒になって乗り越えられればと思う。
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プロフィール
河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)
ブランド再生、マーケティング戦略など実績多数。国内外のプライベートエクイティファンドに対しての投資アドバイザリ業務、事業評価(ビジネスデューディリジェンス)、事業提携交渉支援、M&A戦略、製品市場戦略など経験豊富。百貨店向けプライベートブランド開発では同社のPBを最高益につなげ、大手レストランチェーン、GMS再生などの実績も多数。東証一部上場企業の社外取締役(~2016年5月まで)
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