キーワードは“大きなD2C”とサステナブル…2021年のアパレル業界はこう変わる

河合 拓 (株式会社FRI & Company ltd..代表)
Pocket

2021年、デジタルSPAは明暗が分かれる

 私は、他産業の事例をつぶさに研究し、素材、物流、工場の3つを、企業間を跨いでデジタル技術で共有させる「デジタルSPA」を提言した。「そんなことが企業にできるか」と批判も受けたが、私は評論家ではない。自らが実行者となり実現化させるため主体的に多くの企業を回って活動をし、CxOと討議を重ねてきた。

  私はプラットフォーマーとして、商社活用論を提言してきたが、複合事業体を持つ商社の多くは、繊維・アパレル事業に対する投資に難色を示した。また、自前主義にこだわる商社は、独自に「デジタルSPAもどき」を進めているが、それらの多くは危険だと感じている。理由は、商社に複数アパレルを束ねる力もなければ、アパレルMD業務の標準形をデザインする力もないからだ。さらに、デジタルSPAのキーとなる顧客データの活用について、「D2C」の具体的な戦略がなければ製販は分離したままとなりSPAメリットはない。

  加えて、デジタルSPAの中核技術であるPLMproduct lifecycle management)は、海外パッケージをうかつに導入すると、年間億円単位の請求書が来ることになる。売上1000億円程度のアパレル企業の仕入の全てを獲得したとしても、アパレルからボリュームディスカウントを要請されるから、導入コストに見合う利益は得られないだろう。そもそも、商社がPLMを導入し、アパレルと垂直統合しても、アパレル企業に何のメリットもない。むしろ、従来通り、商社を競争させ、安いところに発注するか自ら直接貿易を増やす方がよほどよい。そのような初期的な分析をしない商社の、「デジタル優先」導入は相変わらず止まらない。

 

早くも3刷決定河合拓氏の新刊
「生き残るアパレル 死ぬアパレル」好評発売中!

アパレル、小売、企業再建に携わる人の新しい教科書!購入は下記リンクから。

1 2 3 4 5

記事執筆者

河合 拓 / 株式会社FRI & Company ltd.. 代表

株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)。The longreachgroup(投資ファンド)のマネジメントアドバイザを経て、最近はスタートアップ企業のIPO支援、DX戦略などアパレル産業以外に業務は拡大。会社のヴィジョンは小さな総合病院

著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「生き残るアパレル死ぬアパレル」「知らなきゃいけないアパレルの話」。メディア出演:「クローズアップ現代」「ABEMA TV」「海外向け衛星放送Bizbuzz Japan」「テレビ広島」「NHKニュース」。経済産業省有識者会議に出席し産業政策を提言。デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言

筆者へのコンタクト

関連記事ランキング

関連キーワードの記事を探す

© 2024 by Diamond Retail Media

興味のあるジャンルや業態を選択いただければ
DCSオンライントップページにおすすめの記事が表示されます。

ジャンル
業態