ソフトバンク、ヤフーの新流通革命4 ヤフーの周到かつ唯一の戦略とは!?
後発企業のEC参入戦略は“連携性”
敗者と勝者とを分けた、Y a h o o !とGoogleの戦略の違いは技術連携性である。たとえば、今では当たり前だが、Googleのウェブサイトに登録すれば、さまざまなアプリの面倒な登録を省略することができ、「Googleカレンダー」や「Gmail」なども使える。また、S N Sの最終兵器と呼ばれる「YouTube」にも連携する。こうしたアプリ間連携によって、多くの人はいつしかPCの中はGoogle一色になっていった。
このようにGoogleは、卓越した戦略で、無敵といわれたMicrosoftの牙城を覆していった。その闘いぶりは、まさにオセロゲームそのもの。絶対に取られない四隅を奪い、そこから駒をひっくり返すのが戦略の定石だ。
私は、こうした各社の戦いとその勝敗をつぶさに分析し、ネットという主戦場の特殊性と戦略を、拙著『ブランドで競争する技術』(ダイヤモンド社 12年発売)に、「後発企業のEC参入戦略」と称して書き記した。
そこでは、キラー商品を巨大ECモールにぶち込み、顧客と商品をバインディング(結びつけ)し、一気にECモールでの出店を止めて、自社サイトに顧客を根こそぎ持ち込む戦略を提唱した。実際、ある新興企業は、大ヒット商品である激安女性向けスーツを巨大ECモールで大きくアピールしたあと、自社ECに誘導して大成功、上場を達成した。これは、Googleの戦い方からヒントを得た。
しかし、私の助言を正確に理解した管理者、企業は少数派だった。当時から、そして、今でも、巨大ECモールにでれば売上が上がる、という発想が主流だ。当たり前だが、人口減少が進む日本で持続的成長を進めるためには、商品を販売することよりもむしろ、たくさん買ってくれる顧客を囲い込むことのほうが重要だ。残念ながら、当時のYahoo!にも、こうした技術連携、アプリ連携、そして、後述する商品連携は見られなかった。個別サービスがバラバラに存在し、せいぜいポイントが共通化できる程度だった。それは、まさにオセロの負け戦そのものだった。
空中戦を繰り広げる3社の戦略を分析
時代は、地上戦(リアル店舗の世界)から、空中戦(インターネット・E Cの世界)、そして複合戦(オムニチャネル、リアル店舗とインターネットに境目がなくなり融合する世界)へと移り変わり、地上戦の覇者であるセブン&アイ・ホールディングス(東京都/井阪隆一社長)とイオン(千葉県/岡田元也社長)に対し、空中戦の覇者である楽天とZホールディングスに、世界企業であるAmazonが加わり、日本市場で世界大戦が起きることは、こうした戦略を紐解けば必然的帰結である。
したがって、空中戦が得意な3社(楽天、Amazon、Zホールディングス)は、地上のリアル店舗にM&Aをしかけ複合戦の闘いを挑み、20年はTOB元年となる。数年遅れて米国の事例が日本に来るという定説に従えば、Amazonは17年にホールフーズを買収したし、日本でも19年、ライフコーポレーション(大阪府/岩崎高治社長)と手を組み複合戦の闘いを挑んでいる。
こうしたなか、現時点における1つの重要な事実を紹介したい。それは、私が昨年行った調査結果によれば、消費者の多くがAmazonと楽天の2つのプラットフォームで買物は十分と考えている点だ。
私の自宅では、夕方にワインが飲みたくなったら当日の夕食時に届くという信じられないサービスまでAmazonでは展開しているし、家電にしてもめぼしいものは大手家電量販店よりもAmazonのほうが安く、かつ、翌日には配送無料で家に届く。
Amazonで買わない理由があろうか、と混乱するほどだ。“ 神サービス”ともいえるAmazonに、楽天が加われば、一見、以前からのサービス利用者の維持深耕を除けば、ヤフーにはこの競争に入り込む隙間はないように見える。それほど、Amazon、楽天の牙城は盤石で、両者は顧客を離脱(顧客をほかのサイトに奪われることを意味する専門用語)させないよう、ありとあらゆる商品とサービスを連携させているのだ。それは、先述した無敵のMicrosoftに一泡吹かせた、Googleの「技術連携」と同じ発想なのである。
こうした鉄壁の牙城を崩す方法は、実は1つしかない。キーワードは今回説明してきた「連携性」だ。具体的には、「キラーアイテム」(誰もが必ず買う商品)、「キラーサービス」(誰もが必ず利用するサービス)と連携させ、オセロのように敵陣の弱点をつき駒をひっくり返すという戦略である。この詳細を第5回で解説していく。
※本特集は『ダイヤモンド・チェーンストア』誌12月1日号特集から一部コンテンツ抜粋の上、加筆・再編集したものです
河合 拓
事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー ハンズオン型事業再生、再建を得意とし、これまでに国内外で再建に成功した企業は50社を超える。最近の事例では、マイナス100億円の赤字企業を一年で黒字化し、成長軌道に乗せるなど、アパレル企業再生の第一人者。執筆、講演も多く、代表作「ブランドで競争する技術」はアジアでも出版され知名度は高い。東証一部上場企業の社外取締役(~2016年5月まで)