Shein(シーイン)が日本で騒動を巻き起こし始めている。原宿店にはなんと4000人を超える人が列をなしたと同時に、日本のメディアによるシーインが「商品模倣」で訴えられているという報道が物議を醸している。このように毀誉褒貶さまざまのシーインだが、ここには日本のメディアの安易に勧善懲悪をつけたい拙速な点、
シーインが商品模倣なら、日本のアパレルは自己矛盾に!
まず、シーインを巡る訴訟について見ていきたい。米Wall Street Journalは11月3日付けで、シーインとその親会社は、公式記録によれば、著作権と商標権違反で少なくとも50回米国で訴訟を受けている*、と報じている。
次に幾つかの記事を読むと、シーインが訴訟を受けているのは、「アートワーク」など絵画のコピーであり、これは偽造罪でなく商標権侵害であり、偽造罪は見つからなかった。実際、日本の某メディアでは、「商品模倣」と書いているにも関わらず、続けて、「『たべる牧場ミルク』の牛のイラストがシーインで模倣されたと訴えた。」と主張に矛盾が生じている。
断っておくが、私は、偽造品 (にせもの)はダメで、肖像権侵害がよいということをいっているのではない。そもそも、アパレルというビジネスに偽ブランド品(コピー商品)を除いて「偽造品」など存在するのか、という疑問と、なぜ、一次情報にアクセスしてそれを検証しようとしないのかということだ。
これが偽造罪として成立するなら、日本のアパレルビジネスの現場は偽造罪だらけになる。日本の現場では「ここで作られている製品は、A社が使っています」と商社が他社の縫製仕様書を見せ、中国の工場にいけば、生産が流れている様を見て「これの着丈を3cm短くしたものをつくってくれ」と言うのが当たり前で、「模倣品ばかり」だからだ。実際、こうした様子をみてコピーした方もされた方も開き直り、「アパレルビジネスなど模倣ばかりだから、先に出してマーケットを奪った方が勝つのだ」とスピード競争になっている。
* Wall Street Journal, China’s Fast-Fashion Giant Shein Faces Dozens of Lawsuits Alleging Design Theft
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シーインが「ロゴ」酷似の商品を作る、AIのアルゴリズム
さて、シーインを訴えているブランドの1つにベイエリアで誕生した人気ブランド「CookiesSF」がある。
このCookiesSFの訴訟が、米国で騒がれたのは、この訴訟が商標権侵害でなく、偽造罪訴訟だったからだ。米メディアSourcing Journalは11月、以下のように報じている*。
「there’s the matter of the violation in this incident, which is so apparent to the naked eye that Cookies is suing for counterfeiting, not just trademark infringement, which could result in triple the damages.」
もしこれが偽造罪であればシーインが払う罰金は3倍になるだけでなく、アパレルビジネスのそもそものビジネスフローに大きな影響を与える可能性があるということで、産業界が大きくざわめいたようだ。しかし、元記事や「CookiesSF Shein」で画像検索して、よくみてもらいたい。確かに、これはアートワークではないが、「ブランドロゴ」の模倣のようであり、必ずしもデザインの模倣とはいえないと思う。もちろん、判決はでておらず安易な結論は語ることができないが、私はここで一つの結論に達したのである。
*Sourcing Journal, Experts Say This Lawsuit Could Force Shein to Stop the Steal
その結論とは、シーインのビジネスは、AIによる「売れ筋ヒットの理由分析」であり、これは、「商品コード」で初速を追いかける日本のQRとは大きく異なる。余談ながら、ZARAも「ヒット要因」を追いかけ、決して商品コードを追いかけてはいない。世界の常識は日本の非常識で、日本が誤訳から戦略の誤謬を引き起こし負けている要因になっているということなのである。
ここからは、私の推測になるが、仮にシーインがAIによるヒット要因を、この「ロゴ」に求めていたとしたら、全てがスッキリと説明可能だ。例えば、単なる1500円のポロシャツに馬のポロマークをつければ、ラルフローレンに酷似したものとなり、価格は15,000円に上がる。極めて洗練されたAIは、ヒット要因を読み取り「ロゴ」にヒットの理由を見いだしたと考えられる。つまり、AIのアルゴリズムが、我々日本人の知恵を遙かに超えているため、このようなことが起き、また、メディアの適当な報道が状況を矮小化、短絡化させて悪者、良い者を別ける短絡的な判断に至ったと考えられるわけだ。
シーインの実態はテック企業
「不完全なAI」に学習させると何が起こるか?
実際、シーインは自らを「テック企業」と呼び、アパレルカンパニーと呼んでいない。彼らは、創業期はウエディングドレスからはじまり、アパレルを経てキッチン用品、ペットグッズまでアルゴリズムを進化させているわけだ。また、その安さとスピードを生み出す生産の秘密や、AIを使った画像マッチングの技術、そして、その画像解析から「ヒット要因」を見いだし、売れ筋商品を見つけ残反素材で作る技術はさんざん説明したとおりだ。
例えば、日本のQRなど、「パクリ」技術の最たるものであり、AIをつかった需要予測が全く機能しないのは、この「パクリ・ビジネス」に活用すること、そして、量の問題と質の問題をはき違えているからだ。
その結果、みずからのビジネスフローを忘れてしまい、「
今、日本のショッピングセンターにいけば、値段を安くした「無印良品」風の店舗や、生活雑貨とアパレル、カフェを組み合わせた複合業態など、「どこかでみた店だな」というものはいくつもあり、また、アイテム別に見れば、そのほとんどが「ユニクロやg.u.でみた(どちらがマネたかはわからないが)」というものが氾濫しているではないか。
それでも、アパレルは私の知っている30年、中国製のロゴコピーはあったが、アパレルのデザイン模造品(にせもの)訴訟は聞いたことがない。
もし、私の仮説が正しいなら、シーインはやがて「訴訟費用をコストと考えるモデル」(Wallstreet journal)をやめ、AIアルゴリズムを発展させて、ロゴや絵画の模倣をヒットの要因として分析しない仕組みをAIに学習させるだろう。そうなれば、まだ確定情報を制御するPLMでドタバタ騒ぎをしている日本企業を遙かに抜き去る、
あるメディアで、「シーインの工場潜入」
上の写真を見て欲しい。これはSheinの商品と全く同じものが全く同じモデルによって撮影された商品がタオババで販売されているという事実である。なぜ、米国企業は「シーインだけ」を訴えるのであろうか?シーインを狙い撃ちにして、競争力をそごうとしていると考えるのが自然ではないだろうか。
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アパレル産業は将来の成長産業
さて、今回最後に伝えたいのは、アパレル産業に対する正確な認識だ。
アパレル産業に関する典型的な誤解は、この産業は「オワコンである」という一般認識だ。実際業績不振の企業は恐ろしく多く、将来を悲観して、多くの有望な若手社員がアパレル業界から去っているという。
だが、改めて考えてもらいたい。私が何度も言っているように、もしオワコンなら、なぜファーストリテイリングが時価総額世界第一位になり、米国のファンドが2000億円も払って日本のマッシュスタイルホールディングスを買収するのか? なぜ、バロックジャパンは中国のファンド傘下に入り成長を続けているのか? という問いだ。
答えられるだろうか?私が主催するアパレル研究会で得られた理由は以下の3つだった。
1.日本人は高付加価値(の商品、サービス、ブランド)を作ることができるがその評価ができない。だから、良いものは外国に持って行かれ、海外で騒がれると日本人は騒ぎ出すという。
2.コミュニケーション能力の問題も大きい。これは、単純に英語ができるできないという話ではなく、「論点をはっきりできない」というビジネススキルの欠如によるものだ。独特の言い回しを多用することで、問いに対する回答がわからない、あるいは、結論がないまま話しが進んでゆくこともしばしばだ。
3.分析力の問題もある。例えば、「うちのポチはよく吠える。甘やかして育てたからだ」と聞けば、ほとんどの人が「ああ、犬は甘やかせて育ててはいけないのだ」と思うだろう。だが、その前提条件として、「ポチ=犬」だと思い込んで、その前提を明らかにしようとは思わない。もし「ポチ」が「猫だった」ら、その時点で認識が大きくずれることになる。
とくにデジタル用語は、定義を聞くと色々な解釈がでてきて定まっていない。例えば、D2Cなど最たる例だ。
日本のアパレル産業はオワコンではないのだ。問題は自分たちにあり、そのやり方さえ間違わなければ、いくらでも成長できるというわけだ。 そうでなければ、マッシュスタイルホールディングスの件をはじめ、上記で説明したようなことが起こるはずがないのである。
シーインの件も、安易な勧善懲悪で思考停止に陥るのではなく、その強さの本質を知り、自社として何ができるかを深く考えるべきだ。
プロフィール
河合 拓(経営コンサルタント)
デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言
筆者へのコンタクト
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