脱駅弁依存、冷凍、店舗戦略…コロナ禍の変化に対応する崎陽軒4代目新社長の挑戦

2022/08/11 05:55
    油浅健一
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    「おうちで駅弁」を冷凍で、「お客さまの生活圏」で

     実店舗の出店戦略は、不確実な現状を踏まえるとカチッと決められないのが実情のようだ。それでも外出自粛で遠くまで足を運べない消費者に寄り添うように、大勢が行き交うターミナル駅近接の商業施設から「ロードサイト」へとシフトしたことが出店状況からうかがえる。ただし、ロードサイドといっても大型量販店のように幹線道路沿いに出店するのではなく、住宅地から徒歩・自転車で通える商店街の通り沿いの路面店というイメージが実態に近い。半年あまりの間に東京都内で開店したのは浜田山、亀有駅南口、竹ノ塚である。消費者が手を伸ばせば届くエリアに崎陽軒の方から入っていった格好だ。自宅の近くであれば、常温商品に限らず要冷蔵の商品や冷凍の「おうちで駅弁シリーズ」を気兼ねなく買って帰ることができる。

     「もともと崎陽軒をご存じで、多く利用されるお客さまの動きの変化に合わせた結果、このような出店傾向となった。だからといって人の動きが不確定であるため、ターミナル駅から生活圏内のロードサイド一辺倒にしていくわけではない。臨機応変に対応することになるが、販売の軸は実店舗という考えは変わっていない」

    「人が動かないなら情報を動かす」 SNSを開始

     野並氏の社長就任直後、崎陽軒は公式twitterを開設した。SNSを使った情報発信は意外にもこれまで行われてこなかった。その必要がなかったからだ。

     「従来は大勢が移動し、人が集う場所に出店しておけば崎陽軒の商品に触れていただけた。しかし、コロナ禍によってお客さまの移動自体が制約を受け、接点の機会が失われてしまった。twitterは情報発信によりお客さまのタッチポイントをつくるツールとして、いまの状況を補う手段の一つになる。人の動きがなかなか望めない今は情報を動かしていく。状況を見極めながら、ほかの発信手段も検討する」

    崎陽軒創業100周年の際の一コマ(左から4代目晃氏、2代目豊氏、3代目直文氏)
    2008年の創業100周年の際に撮影された2代目豊氏(中央)、3代目直文氏(右)と4代目晃氏の3ショット

    コラボ企画続々と

     企業・団体やイベント等とのコラボ商品や企画はSNSを始める前から旺盛に取り組んでいる。姫路駅などで駅弁を販売するまねき食品(兵庫県)との「関西シウマイ弁当」、ジェイアール東海ホテルズとは「崎陽軒×️東海道新幹線 のぞみ30周年記念コラボレーションルーム」、横浜市歴史博物館とは「品川駅仮開業150年記念弁当」と枚挙に暇がない。前出のとおり新幹線延伸に伴う福井県とのコラボメニューの展開も控えている。

     「これまで崎陽軒を知らなかったり、シウマイやお弁当を食べたことがないお客さまに知っていただくきっかけになってくれれば新しい層の開拓にもつながる。崎陽軒ブランドが、コラボのお相手に『面白い』と思っていただけることは、我々にとっての存在価値の一つの指標にもなる。こういった取り組みは継続していきたい」

     こうしたコラボ企画はどちらから話が持ち上がるのか。「崎陽軒から持ちかけることも、先方から持ちかけられることもあるが、どちらかの片思いだけでは成り立たない。コラボありきの関係ではなく、これまでの関係性があった上で成立していることが多い」という。

    姫路の駅弁会社とのコラボ商品「関西シウマイ弁当」
    姫路の駅弁メーカー、まねき食品とのコラボ商品「関西シウマイ弁当」

    4代目のブランドづくり 

     名物といえるものがなかった時代の横浜で生まれたシウマイ。戦後、激動の時代を生き延びてきたシウマイ弁当。野並氏は父・直文氏から「新幹線が速くなるほど駅弁の売上は落ちるという」とかねがね聞かされてきたという。乗車時間が短くなれば駅弁を車内で食べる時間も必然的に短くなる。シウマイ弁当にとって新幹線の開業など鉄道の高速化は、乗客の腹ごしらえだけを商機と捉えていては売上の目減りが確定する恒常的な課題ともいえる。鉄道の高速化とともに歩んだからこそ歴代経営者は、弁当の味はもちろん、包装やしょう油入れのデザインなど細部にいたるまで改良を重ねてきた。

     会長に就任した直文氏は創業100周年に際し「ナショナルブランドをめざしません、真に優れた“ローカルブランド”をめざします」と経営理念を掲げた。

     その薫陶を受けた野並晃氏が4代目に就任した。

     いま、コロナ禍の時代にありながら、要冷蔵・冷凍商品を居ながらにして注文できるECサイトや「ロードサイド」主体の出店を通じて提供し、「崎陽軒ブランド」を着実に消費者に届けるルートを構築している。一方で、ブランドに愛着が湧くような商品や企画、味覚以外の付加価値を備えたソフトづくりとともに、情報発信を通じてお客との接点づくりを拡充させている。

     「常に変化に柔軟に対応することができる企業であり続けたい。会長は『変えるべきものと変えてはいけないものがある』と言っている。変えてはいけないものほど変わりやすく、変えなければいけないものほど変えにくいものだが、ジャッジし続けることが社長の仕事だ」

     社長としては、走り出して間もないが、就任前から蒔いてきた種が結実している面もある。実はそのジャッジに手応えを感じ始めているのかもしれない。

     「売上だけを考えれば、より多くのお客さまが手に取りやすい売場に商品を提供することが正解かもしれないが、この時代の中で何をするべきかを丁寧に検討し、しっかり判断していくことが大切。入社以来10年あまり、さまざまなコラボ商品をきっかけに崎陽軒を知っていただいたお客さまが、新たな客層として支持してくださっている」

     次はどんなコラボが見られるのか。横浜を通るたびに気になってしまう。

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