小売業受難の2022年なのに、百貨店の株価が高騰する理由とは

椎名則夫(アナリスト)
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気を吐く百貨店株

三越伊勢丹
(i-stock/winhorse)

 そのような中で株価が気を吐いているのが百貨店株です。

 三越伊勢丹ホールディングスは昨年末比+15%上昇、J. フロントリテイリング▲4%下落、高島屋+10%上昇になり、総じて健闘しています。特に気になるのが三越伊勢丹で、株価はコロナ禍直前の2019年12月末とほぼ同水準にあります

 確かに日本でのコロナ禍はワクチン接種の浸透と治療薬の普及で行動制限が緩和に向かい事業環境は好転しました。インバウンドの復活はまだ先になりそうですが、百貨店は最悪期をひとまず脱したように思います。

 百貨店の場合、マクロ環境が追い風ではなくても、コスト削減と得意客に対する深掘りを効率的に両立できれば業績を伸ばせます。これも株価を下支えしていると考えられます。

 そこで今回は百貨店の株価の回復の背景を少し整理してみたいと思います。

三越伊勢丹ホールディングスの株価上昇要因は?

 三越伊勢丹ホールディングスは2021年3月期に営業赤字▲209億円(日本基準)を計上しましたが、2022年3月期にはいって収益がボトムアウトしており、通期営業利益の会社計画は30億円とされています。これは販売管理費における経費構造改革を進めるなかで、総額売上高が回復することが効いています。市場コンセンサスを眺めると、2023年3月期の営業利益予想は195億円程度、これは2020年3月期を上回り、2019年3月期の水準の3分の2の水準です。株価が2019年末の水準まで回復してきたことは、同社の経費改革と採算改善に対する期待の高さがうかがえます。

 次に、同社の中長期的な方向性を統合報告書2021で確認しておきましょう。

 経営戦略の概要は「お客さまのお困りごとを感動的に解決し、お客さまの関心ごとを革新的に提案する」という百貨店改革を通じて、「お客さまの暮らしを豊かにす“特別な”百貨店を中核とした小売グループを目指」すこととのことです。

 計数面では、3年後の2025年3月期の営業利益目標を350億円(内訳は百貨店事業220億円、不動産事業70億円、金融事業49億円)、10年後の営業利益を500億円レベル(内訳は百貨店事業225億円、不動産事業150億円、金融事業100億円)と描いており、百貨店の再生フェーズ→連邦経営による展開フェーズ→まちづくりによる結実フェーズというステップを設定しています。不動産開発は2025年3月期以降に本格投資を進める模様です。

 具体的な戦略については統合報告書をはじめとした開示資料をご覧いただくとして、当座の3年間は本業である百貨店事業の再構築に力を入れること、そのためには主力店舗の個性を明確にし、外商を強化し、個客管理の徹底、固定費の削減を進めることが主軸に置かれています。

 筆者の見立てでは、いずれかの時点で新宿伊勢丹、日本橋三越の建屋に手を加える時がくるということでしょう。主力店舗の再開発に取り掛かっても、物理的「売場」の減少の影響を最小限にとどめることができる体質になることが、同社の最大の課題だと思います。得意客の開拓と深掘りができるか否かで、新宿・日本橋の街づくりへの関与が変わり、同社の収益アップポテンシャルおよび収益の安定性が規定されていきます。当座の3年間はこのように本業である百貨店事業の売上・利益の「質」が注目されることになります。現在は商品調達、CRMの双方でデジタル・トランスフォーメーション(DX)を実装するには最適なタイミングだと思います。このチャンスを活かしきることができるでしょうか。

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