小売業受難の2022年なのに、百貨店の株価が高騰する理由とは

椎名則夫(アナリスト)
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J.フロントリテイリングの株価上昇要因とは

大丸 イメージ
写真は神戸店
 三越伊勢丹は3年後以降に不動産開発を本格化するのに対して、J.フロントリテイリングはパルコの取り込みや松坂屋からGINZA SIXへの業態変換が象徴するように業態変革について一歩先んじていると考えますが、その業績と中期展望はどうでしょう。
 まず足もとの業績ですが、2021年2月期(IFRS)に事業利益23億円、営業赤字▲242億円を計上しましたが、2022年2月期は事業利益115億円、営業利益92億円で着地した模様です。三越伊勢丹ホールディングス同様、百貨店事業における高額品の好調、増収とコスト抑制が主に効いている模様です。アナリスト予想の平均値を見ると2023年2月期の営業利益は270億円程度でV字回復が続きそうです。しかし三越伊勢丹と比較すると利益回復のペースが鈍く、これが同社の株価が三越伊勢丹と比べていまひとつである背景だと思います。

 次に、同社の中長期的な方向性を統合報告書2021で確認しておきましょう。

 経営戦略の概要は「くらしの『あたらしい幸せ』を発明する」を基本的なビジョンとし、向こう三年でまずは収益力の「完全復活」を実現し、その後デベロッパー事業と決済・金融事業の比重を高めつつ、「こころ豊かなライフスタイルをプロデュースし、地域と共生する個性的な街づくりを行う企業グループ」へ発展させるという目論みです。

 同社は3年後の2024年2月期の営業利益目標を403億円(内訳は百貨店事業229億円、SC事業100億円、デベロッパー事業44億円、決済・金融事業24億円)、2031年2月期の営業利益を800億円レベル(内訳は百貨店事業+SC事業480億円、デベロッパー事業+決済・金融事業等320億円)と描いています。

 具体的な戦略については統合報告書をはじめとした開示資料をご覧いただくとして、当座の3年間は、リアル店舗を基軸に据えた「リアル×デジタル戦略」「プライムライフ戦略」「デベロッパー戦略」が主軸になります。さらに固定費の削減と経営指標としてROIC(投下資本利益率)を導入することによる資産効率管理を進めることになります。なお、デベロッパー事業の注力エリアは栄(名古屋市)と心斎橋(大阪市)となり、収益への明確な寄与は(三越伊勢丹ホールディングス同様)、現在の三か年の中期計画のあとになる模様です。

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