日本、中国事業の異変と、積み上がる広告宣伝費… ユニクロ失速の秘密を分析する
広告宣伝費の大幅な増加が意味すること
ファーストリテイリングの戦略で、私の理解が追いつかないのは、昨今の膨大なメディア露出である。最近では、サザンオールスターズや、女優の綾瀬はるかを起用してジーンズを打ち出しているが、春にデニムを打ち出すのは毎年のことだ。そこには、さしたる商品PRもなく、また、決算説明会動画では「広告宣伝は世界中で積極的に展開した」**と説明していた。その結果、販管費を押し上げることとなり、昨今の円安と原材料高も相まったものの、それらを「企業努力でなんとか対応した」ということだが、実態は、「商社はずし」でオフセットした、と考えれば辻褄が合う。** 動画での説明の中ででてきた言葉から引用
私は、なんの付加価値もない商社など外すべきだと思うし、そうした動きが広がれば商社も戦略を転換し、私が提言する「商社2.0」に否が応でも近づいてくると思っている。だから、仮にファーストリテイリングがコスト高を「商社はずし」で対応したとしたら、素晴らしい先見眼だと思う。
しかし、それでも、世界中での広告宣伝費の増加は理解の範疇を超える。22年8月期第1四半期の広告宣伝費は218億円で対前年同期比13.5%増である。ちなみに21年8月期通期の広告宣伝費は665億円で対前期比2.5%減であった。
「投資をするところにはしっかり投資をする」の一部なら、広告宣伝を強化しなければ困るということだろうか。
同社の認知戦略は過去から、世界の一等地に巨大店舗を建て、お金を払って各種メディアに出稿する広告から、メディアが勝手に騒ぎ出す「戦略PR 」だったからだ。なぜここで、広告宣伝費を世界的に増大させ、さらに将来も増加させると言うのか。
今、在宅ワークが増え、お昼のテレビを見ている人も増えていると思うが、テレビを見れば、「ユニクロ・コーデ」だらけだ。また、YouTubeでインフルエンサーとして著名なMBさんも、ユニクロの宣伝ばかりである。普通に考えれば、狙いは2つ。一つは、コーポレートイメージチェンジ。つまり、SDGs対応だ。古くはブラック企業の汚名を着せられ、同社の卒業生は、体の隅まで「成長しなければ死を意味する」とすり込まれ、「柳井氏から経営の神髄を教えられた」という人に何人も会った。
同社を外側から見ているものとして、あくまでもイメージだが、ファーストリテイリングは事業会社というよりコンサル会社や外資系企業に近く、和気藹々と働き方とは程遠そうだ。それゆえ、環境と共生することも含め、「新しい資本主義」時代のリーダーシップをアジアから発信してゆく企業というイメージを持ちにくかったのかもしれない。このイメージを変えようということではないだろうか。
2つ目は、販売苦戦を背景に、広告宣伝費を増やして消費者の反応を高め(結果、好感度を上げる)、売上をあげるという狙いだろう。いくらベーシック衣料とはいえ、クローゼットの中がユニクロ商品でいっぱいになった消費者が、この先も同じような服ばかり買うということは、考えにくいだろう。
フリースにはじまり、日本人の国民服となったヒートテック、エアリズム、バリューチェーンのデジタル化による圧倒的コスパを実現した「カシミヤセータ」、そして、約2割のシェアを奪ったといわれるブラトップ…こうしたイノベーティブな商品をボンボンと毎年生み出すことなど至難の技だ。
何年も同じような服ばかり買うというのは考えにくいということだ。他の競合アパレルも、あの手、この手で、ファッション商品を作り、同社を追い込んでいるし、私も+Jの大バーゲンで、ユニクロはやはりインナー衣料だと思うようになった。そのつなぎとしての、広告宣伝費の増加なのだろうか。
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