ユニクロがマネできない領域はここだ!アパレルの競争戦略とDXを成功に導く方法とは
私は前回、日本のアパレルが「オワコン化」といわれる最大の原因について、①今に至るまで、世界化をしてここなかったこと、②川中、川上はマーケットと隔絶し、世界とのパイプが遮断され浦島太郎状態になっていたこと、さらに、③デジタル化については細切れ。バリューチェーン、ビジネスモデル全般にわたり、本質的な競争力をいかにして高めるか、という業務とデジタルの融合視点なく俯瞰力に欠けることであると断じた。さらに悪いのは、それぞれの方々は、真剣に自分の会社、組織をどうにかしたいと考えている「無自覚の加害者」*であるということである。したがって、社員が本気になるほど産業界はフリーズしたままということになる。
*自ら自覚がないまま、頑張れば頑張るほど害悪を及ぼすこと
このように、日本のアパレル産業は構造的に鉄のように固まりテコでも動かない。経営学の世界に「茹でガエル」という暗喩があるが、誰もが「まさか自分が茹でガエルになっている」とは思っておらず、徐々に死滅に追いやられていることに自覚がない。もし、日本企業に柔軟性と柔らかいマーケティング発想があれば、改革の方向性はそれほど難しいものではない。ライブコマースと越境EC、D2Cのビジネスモデルを半年以内に立ち上げ、少なくとも3年は耐えることだ。いまはそれ以上の解はない。
今回は、そういったことを踏まえたうえで、DX成功の手法について解説したいと思う。
改革を阻害する張本人は自分自身だということに気付いてますか?
知らず知らずのうちに改革を阻害する張本人に自分自身がなってしまっていることに気付いてほしい。
社内でやる気のある中間管理職が以下のような抜本的な提案や改革を打ち出す。
- 悪化した状況に陥った原因を分析し、問題を白日の下にさらす。
- 将来のビジネスモデルを変えるなら、この組織とこの組織は不要。
- 意思決定を早くするため情報伝達会議はすべて廃止し電子メールとする、電子メールはすべて5行以内。
- 今後、社内コミュニケーションは透明化させ、得意先や仕入先もいれてすべてグループウエアで行う。
- プレゼン資料はすべてA3一枚で15分以内。会議に準備せずに参加した者は出ていってもらう
こうした勝ち組企業には当たり前のやり方を導入しようとすると、スピードや変化についていけない「老害」が必ず邪魔をするのである。
そして、例えば「越境EC」をやろうとなると、「まずはリスクを取らずに小さくスタートしよう」などと言いだし、海外向け卸問屋に渡しておしまい。ECのデータベースマーケティングのメリットは全く享受できないまま「やっぱりダメだった。次の魔法の杖はないか」と言って、コンサルや「先生」に責任転嫁し改革はジエンドとなる。彼らは、やりきった感覚はないが、必ず「ああ、それはやったけど効果はなかったよ」という。
このような「他責文化」が横行する組織につける特効薬はないし私もかかわる時間は無い。医学の世界では、医者は病気を治す手伝いをするだけで、病気を治すのは患者自身だというのは昔からいわれてきたが、なぜか、企業改革となると「金を払ったのだから、一振りで会社が変わる魔法の手法を教えろ」と、実行責任を私たちコンサルタントに押しつける。業績の悪い会社というのは業績が悪いなりの理由があるのである。
早くも3刷!河合拓氏の新刊
「生き残るアパレル 死ぬアパレル」好評発売中!
アパレル、小売、企業再建に携わる人の新しい教科書!購入は下記リンクから。
河合拓のアパレル改造論2022 の新着記事
-
2023/01/24
「大ディスカウント時代が到来」 この意味が分からないアパレルの未来は悲観的な理由 -
2023/01/17
H&MやZARA等が原価下回る価格で取引を強要 SDGs時代にこんなことが起こる必然の理由 -
2023/01/10
ビッグデータを制する企業が勝利する理由と、M&Aできない企業が淘汰される事情 -
2022/12/27
2023年のアパレル大予測 外資による買収加速・DX失敗・中国企業に完敗、が起こる理由 -
2022/12/20
中国企業傘下の仏メゾン「ランバン」米国で上場 いまや中国企業に追いつけない理由 -
2022/12/13
過去のヒットからAIが予測し売れる服を自動生成!?アパレル業界の課題とこれからとは
この連載の一覧はこちら [55記事]
ファーストリテイリング(ユニクロ)の記事ランキング
- 2024-01-02勝ち組はSPAではなく「無在庫型」へ 2024年のアパレル、5つの受け入れ難い真実とは
- 2023-08-28ユニクロと東レとのサステナブルな関係から生まれたリサイクルダウン
- 2024-09-03アローズにビームス…セレクトショップの未来とめざすべき新ビジネスとは
- 2024-11-16ファストリが3兆円突破!24年8月期決算で語られた今後の成長戦略
- 2021-03-05ビジネスは「一勝九敗」 ファーストリテイリングを世界的大企業に導いた“柳井哲学”
- 2021-05-04大丸、三越伊勢丹…誰も語れない百貨店分析 政府の施策が百貨店を殺す「本質的理由」
- 2021-05-18全産業中ワースト2位の不都合な真実、アパレル業界の環境破壊と人権問題を解決する方法
- 2022-01-11ZARAとユニクロだけがなぜ余剰在庫を撲滅できるのか?本人達も気づいていないメカニズムとは
- 2024-08-27好調アパレルに異変?在庫回転率悪化の複数要因とファストリ改善の理由
- 2019-04-12柳井正が語るユニクロ「働き方改革」の真価
関連記事ランキング
- 2024-12-10ワールドが三菱商事ファッション買収!進むアパレル垂直統合、2つの課題とは
- 2024-11-26イタリア繊維産業に学ぶ、高くても売れるビジネスの秘密とは 染めと売り方が段違い
- 2024-12-03ユニクロ柳井会長がウイグル綿花不使用発言に至った理由と影響、その複雑な背景とは
- 2021-11-23ついに最終章!ユニクロのプレミアムブランド「+J」とは結局何だったのか?
- 2024-09-17ゴールドウイン、脱ザ・ノース・フェイス依存めざす理由と新戦略の評価
- 2024-12-17あなたはいくつ備える?AI時代に生き残るビジネスパーソン3つの条件とは
- 2023-08-08EC時代にスクロールとベルーナだけ好調 生き残るカタログ通販、死ぬカタログ通販
- 2024-11-19ユニクロ、開始から7年で明らかになった有明プロジェクトのいまとすごい成果
- 2023-09-26無印良品の一部となる三菱商事ファッションとユニクロ:Cの成功が意味することとは
- 2024-01-02勝ち組はSPAではなく「無在庫型」へ 2024年のアパレル、5つの受け入れ難い真実とは
関連キーワードの記事を探す
「SPAだから強い」が途方もない誤解である理由と強さを決める「製販の柔軟性」とは
あなたはいくつ備える?AI時代に生き残るビジネスパーソン3つの条件とは
VTuberビジネスに学ぶ、小売業を高収益化する「レバレッジ」の掛け方