第6回 ショッパーのインサイトを追求するための
“3つの方法”とコロナ禍における 買い物客の行動変化の捉え方

2021/12/24 15:07
    倉林 武也
    Pocket

    デプスインタビューで課題を掘り下げる

     2つ目は、デプスインタビューによって厄介な課題を掘り下げる方法。デプスインタビューとは定性調査の手法の1つで、対象者とモデレーターが“1対1”でインタビューする調査手法だ。

     「デプス(depth)」とは「深さ」を表し、インタビューの中で「対象者と深く関わることができる」という意味と、「対象者からの話の内容や返答が深い」という2つの意味を持つ。グループインタビューと比べると、より個人の意見を詳細に伺うことが可能だ。 対象者とインタビュアーとで多くの時間を共有し意見を交換するため、回答者からの返答も端的なものばかりではなく、その行動に至った理由や方法、きっかけなども詳しく聞くことができる。

     また、インタビュアーの質問として「何か問題や課題は?」と正面から聞いても、その答えはなかなか核心に触れ難い。そうした時に「あなたの解決したい厄介な課題は?」や「さっさと片づけたいことはなにか?」と言った様に、“厄介”や“さっさと”などあえて俗っぽく上品ではない言葉で質問をする。これは、頭や気持ちの中で考えたことに“引っ掛かり”の様なものを作ることで、言葉に飾りを付けたり話し方に気を使わせない効果を持つ。ジョブ理論の「顧客が片づけなければいけないことを探す」と同じ意味を示す。

     また、このインタビューの対象者の選び方にもポイントがある。商品やサービスの開発を目的にする場合に、インタビューの対象者を「エクストリームユーザー」として、極端なニーズや、商品やサービスの使い方をする人を選ぶケースがある。世間の常識や固定観念を打ち破ろうとする目的や狙いから、あえてそうした極端な人を対象に行うのだ。

     しかし、筆者の場合はインタビューの対象者はできるだけ普通の価値観を持ち、普通の買い物や商品やサービスを利用する人を対象にする。そうした人の気持ちの中にある「厄介と思える課題」を掘り下げて、その解決を企業の商品やサービスを介して行うことや、その商品やサービスを使いたくなる行動を起こす「心の中にあるスイッチ」を見つける様にするのだ。

     そして3つ目は、他の企業が行った展開から、その企画が捉えたインサイトを想像して、自社の商品やサービスの訴求に置き換えて試してみる方法だ。

     1つ目と2つ目のインサイトの追求の仕方は、ペルソナにしてもデプスインタビューにしても対象となる人物を捉えることから始めるが、3つ目の方法は一旦それらから離れて、他の企業が「ショッパーやコンシューマーのインサイトを捉えて効果的に展開しているもの」を対象にする。これは前回の「売場の流儀」の中でも紹介したが、様々な商業施設や小売業の売場で見られる企業のプロモーションの展開から、「誰のどの様なインサイトを捉えたのか?」「そのインサイトを自社の商品の売上やお店やサービスの利用にどの様につなげたのか?」などを考え(想像して)、それが自分たちの課題を解決するためのインサイトとして応用ができそうであれば、まずは置き換えてみることからはじめる。

    インサイトのヒントが見つかるのは売場だけではない

     インサイトのヒントを見つける場所は、必ずしも商業施設や売場とは限らない。以下は小売業の売場ではなく、日清食品が「広告」として展開した内容だ。

     日清食品の柱商品であり、小売業のカップ麵の定番商品である「カップヌードル」の広告。ランチのアイテムや小腹が空いた時、夜食や受験生のメニューなど色々な生活シーンからの訴求が行われるが、カップヌードルが最高にうまいと感じる場面はいつ、どこだろうかと、コンシューマーやショッパーのインサイトを掘り下げて行くと、この広告にある「屋外、それも満天の星空のもとで冷たい空気の中で食べるカップヌードル」に行き付つくかもしれない。アウトドアの経験のない人にとっても、その場面を想像して思わず頷いてしまうような効果が期待できる広告だ。

     自社の商品が食品や飲料の場合「それを最高においしいと感じて食べたり飲んだりする場所はどこか?」そして「そう感じる人は誰か?どの様な人か?」。他の企業の展開から想像したインサイトと、それを行動(買い物や選択)に移させようとした仕組みや表現から、自社の商品やサービスの課題を解決するためのヒントとして置き換えてみる。これは普段から上質な情報(売場での展開や商品の訴求テーマ)に触れることで、自身の発想の引き出しの数を増やし、その活用や応用の確率を高めることになる。

    「カップヌードル」の広告

     そして最後に、現在のコロナ禍におけるマーケティングや営業活動について。コロナ禍以前であれば、ここで挙げた売場や商品とショッパーやコンシューマーのあり方からインサイトを掘り下げて、購買や消費行動につなげて行くことを念頭において取り組んでいたが、新型コロナウイルスの影響によって消費に関する意識や買い物行動には大きな変化が生まれた。最後に記載した資料は、そうした意識や行動の変化をスーパーマーケットなどの買い物行動の様子から描いてみたもの。これからの時代、ショッパーやコンシューマーのインサイトを見つける前提に、まずこうした意識や行動の変化がショッパーやコンシューマーにはあることを頭に置きながら、「心の中にあるスイッチ」を見つけて行く必要を感じる。

    コロナ禍における行動心理と買い物行動の変化。
    ※クリックで拡大
    1 2
    © 2024 by Diamond Retail Media

    興味のあるジャンルや業態を選択いただければ
    DCSオンライントップページにおすすめの記事が表示されます。

    ジャンル
    業態