コスト高、重い足かせ=景況感、マイナス目前に―日銀短観〔潮流底流〕

時事通信社
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日本銀行本店
〔写真説明〕日本銀行本店

 日銀が発表した3月の全国企業短期経済観測調査(短観)では、大企業製造業の景況感を示す業況判断指数(DI)がプラス1と、マイナス圏目前に迫った。原材料価格高騰に伴うコスト高が企業業績の足を引っ張る。消費者の節約志向は強まり、欧米発の金融不安で先行き不透明感も増す。新型コロナウイルス禍から回復途上にある景気は、腰折れしかねない状況だ。

 ◇価格転嫁なお不十分
 ロシアのウクライナ侵攻に伴う原材料価格の高騰やコロナ禍での供給不足を背景に、企業の仕入れ価格は2年以上、上昇し続けてきた。トヨタ自動車では、2022年4~12月の実績で資材高騰の影響が1兆1100億円の減益要因になった。「22年度の調達コストは前年度に比べ1~2割増加」(大手メーカー)との声もある。原材料高は企業収益を直撃し続けている。

 大企業非製造業にもコスト高の影響が及ぶ。「宿泊・飲食サービス」の業況判断DIは前回調査時から横ばい。政府の観光支援策やインバウンド(訪日客)需要増による効果を、人件費も含めたコスト高が打ち消した格好だ。

 今回の短観では、仕入れ価格が「上昇」と答えた企業の割合から「下落」の割合を引いた価格判断DIが大企業製造業、非製造業ともに11四半期ぶりに下落。輸入価格上昇が一服したことを反映したとみられる。

 ただ、消費者に近い業種を中心にコスト増を転嫁できずに苦しむ企業はなお多い。販売価格判断DIは、大企業製造業が下落に転じた一方、大企業非製造業では11四半期連続の上昇。「もう少し価格転嫁が必要な状況が続く」(日銀)といった見方が出ている。

 ◇消費も力強さ欠く

 消費の回復も力強さに欠ける。コロナ禍からの規制緩和で人々の外出機会は増え、「小売り」のほか旅行業や娯楽業などを含む「対個人サービス」などの業況判断DIは改善した。「手土産のお菓子やちょっとグレードの高いお総菜など、日常の中の『ハレ』の場的なものへの(お金の)使い方が多い」(日本百貨店協会)という。「国内線はこの春休みにコロナ前の9割ぐらいまで需要が回復」(日本航空の赤坂祐二社長)との手応えも聞かれる。

 しかし、日常生活での節約志向は依然として根強く、先行きは悪化を見込む業界が多い。23年春闘では大企業を中心に満額回答が相次ぐが、中小企業などへの賃上げの広がりは不透明。「買い控え傾向が非常に強くなっており、買い上げ点数がダウンしている」(日本チェーンストア協会)との悲鳴も上がる。

 ◇先行きに不透明感

 インフレに苦しむ先進各国の大幅利上げに対し、企業からは海外経済の減速を警戒する声が強まりつつある。今回の短観にはほとんど反映されていないが、米欧の金融機関の破綻や救済などで、金融危機発生への不安は消えない。現時点では「まだまだ供給不足が先行しており、需要減退感は感じられない」(ホンダ)との見方が一般的だが、金融不安が一段と深まれば「原材料高などにさらに拍車が掛かる可能性がある」(自動車業界関係者)と懸念する声は多い。

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