コラム:急浮上する2%物価上昇の現実味、持続性支える3つの要因

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都内を歩く人の足元
日本が30年ぶりにデフレの眠りから覚めたのか──。11月全国消費者物価指数は前年比プラス0.5%だったが、約1.5%ポイントに相当する携帯電話料金の値下げがなければ、日銀の目標2%上昇を達成していたことになる。問題はその持続性で、鍵を握るのはエネルギー価格の動向と来年の春闘で決まる賃上げだ。写真は2016年2月、都内で撮影(2021年 ロイター/Yuya Shino)

[東京 24日 ロイター] – 日本が30年ぶりにデフレの眠りから覚めたのか──。11月全国消費者物価指数(除く生鮮、コアCPI)は前年比プラス0.5%だったが、約1.5%ポイントに相当する携帯電話料金の値下げがなければ、日銀の目標2%上昇を達成していたことになる。問題はその持続性で、鍵を握るのはエネルギー価格の動向と来年の春闘で決まる賃上げだ。「逃げ水」だった2%達成の可能性が高まっている。

携帯値下げ分ないと2%達成

総務省が24日に発表した11月全国CPIは総合が前年比プラス0.6%、生鮮食品とエネルギーを除いたベースでは、前年比マイナス0.6%だった。

物価を押し上げた主な要因は、光熱・水道と食料だ。光熱・水道が0.62%ポイント、食料が0.37%ポイント押し上げた。この2つの項目だけで物価を約1%程度押し上げている。

一方、携帯電話料金の値下げ分が1.48%ポイント含まれており、これがなければコアCPIは2%上昇していた可能性がある。2013年3月からスタートした黒田東彦総裁の下での日銀が、強く求めてきた2%の達成の可能性が初めて現実味を帯びてきたと言える。

携帯電話料金の引き下げは今年4月から始まっており、来年4月になれば前年比の押し下げ効果は消える。物価上昇の圧力が今と同じように継続していれば、コアCPIの上昇率は2%を達成していてもおかしくはない。

日銀内に懐疑的な声

ただ、日銀内には依然として慎重な見方が多いようだ。物価が上がったとしても「一時的ではないか」という懐疑的な見通しが多数を占めているように思われる。1つは国内でも市中感染が東京都や大阪府で確認された新型コロナウイルスのオミクロン株の感染拡大に対する懸念だ。ようやく回復が見え始めてきた対面型サービスの需要に「冷水」をかけ、年明け以降の消費を停滞させるリスクがあるからだ。

また、過去に物価が上がり出そうとした際に、経営努力でコストを吸収し、値上げを回避してシェアを確保する「日本型」の企業対応が目立ったことから、今回も値上げの動きは広がらないのではないかという見通しも根強くあるとみられる。

 

エネルギー価格・賃上げ・中国

ただ、今回の物価の動きには、1990年代のバブル崩壊後に継続してきた「デフレ均衡」を破る予兆があると筆者には感じられる。

1つ目はエネルギー価格の動向である。日銀内には来年にかけて原油価格が低下するという産油国側の試算を重視する声もあるようだが、原油価格は下がらないのではないか。オミクロン株の重症化率が低いことなどで米国のバイデン大統領はロックダウン(都市封鎖)しない方針を示しており、世界的な総需要が落ち込まない可能性が高まっている。

また、脱炭素の世界的な取り組みの中で、産油国が積極的な油井開発などの設備投資に及び腰であり、原油生産量が需要増に応じて増加しない可能性が高まっていることも影響すると指摘したい。

2つ目は、国内における賃上げ環境の変化だ。岸田文雄首相は企業に対して3%の賃上げを要請し、促進税制まで打ち出している。1.8%の定期昇給分を含めて3%近い賃上げが実現すれば、企業はコスト上昇分を価格引き上げで補う行動に出る可能性が高い。

関連して中小企業のコスト上昇分を価格転嫁しやすくするよう大企業に協力を求める方針も岸田首相は先の会見で打ち出し、妨害する企業の行動を監視することにも触れた。これが実現すれば、広い範囲で最終商品の値上げにつながるのではないか。

3つ目は、やや中長期的視点になるが、中国の「共同富裕」政策が日本の物価にも波及してくる可能性だ。中国では習近平主席の音頭取りで、幅広い産業の企業に対し、大幅な賃上げを要請しているもようだ。その結果、中国企業は製品値上げに踏み切らざるを得ず、かつてのような低価格でシェアを獲得する戦略は取れなくなるだろう。

中国からの低価格の圧力が弱まるということは、日本にとっては全般的なデフレ圧力の低下につながる可能性が高まる。

日本国内での物価上昇の予兆は、すでに企業サイドでも「感知」されているらしい。先の日銀短観における企業の先行きの物価見通しも上がり出している。

現実に公表されている食品などの値上げの告知を見ると、来年3月から4月に集中していることがわかる。つまり現在よりも来春以降に物価上昇の圧力が高まっている公算が大きいということだ。

電気・ガス料金や物流コストの上昇も、年明けの企業コスト増大に直結する。賃金を上げないという「抜け道」をふさがれたら、企業は値上げに踏み切るしかないだろう。

不透明な世論

問題は、4月以降にコアCPIの上昇率が2%に達した際に、世論がどう反応しているかだ。賃金も上がってみんなが「ハッピー」という気持ちになっているのか。それとも「物価が上がって生活が苦しい」となっているのか。7月とみられる参院選の前に、物価上昇で岸田内閣の支持率が低下したら、政府と日銀のスタンスに「すきま風」が吹いている可能性もある。

「べたなぎ」だった金融市場が久しぶりに活況を呈し、変動幅が大きくなっているかもしれない。2022年は物価を起点に経済・社会情勢が変化する可能性があると指摘したい。

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