ネットスーパーで顧客の利便性を高めファン化を推進 ベイシアが挑むEC戦略

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ネットスーパーで顧客の利便性を高めファン化を推進 ベイシアが挑むEC戦略

株式会社ベイシア EC部 部長
戸枝 智存 氏


 

ベイシアはグループでデジタル戦略を推進する中で、EC事業の展開を強化しています。ベイシアのEC戦略は主に3つの事業で展開。その1つめが「アプリご予約」。2つめが楽天市場やYahoo!ショッピングなどへの「モール出店」。3つめが楽天グループと協業して、「楽天全国スーパー」として取り組む「ネットスーパー事業」です。ネットスーパー導入の目的は、ロイヤルカスタマーに提供するサービスの高度化。日頃、店舗に来店されているお客様の利便性を高め「ベイシアファン化」を進めるのが狙いです。本セミナーではEC事業のお取り組みの概要と加速するネットスーパー事業の今後の戦略展開についてお話しいただきました。

3つの施策でEC事業を展開

 ベイシアは、デジタルコンセプトとしてのEC事業で3つ施策を進めている。3つの施策とは「アプリご予約」「自社の強みを生かしたEC」そして「SaaS型ネットスーパー」だ。アプリご予約は、2020年12月にローンチしたベイシアアプリの画面に表示される「ご予約」というタブをタッチするだけで商品を簡単に注文できる。ベイシアはチラシを打ったり、様々な媒体を掲示したり、販促を通して、お客様に1回来店してもらうために全力を尽くしている。このサービスには配送がなく来店して商品を受け取れる仕組みで、予約すれば必ず来店していただける。来店が1回約束されるということは、我々にとって重要なこと。来店したお客さまは予約した商品を買うだけでなく、他の商品も買っていくからだ。

 これまでは母の日や、土用の丑の日、クリスマスケーキ、おせちなど、予約注文を取って販売する商品については、紙のパンフレットを大量に作成して、お客さまはそれに名前や住所を書いて、申込用紙をサービスカウンターに持って行って注文する仕組みだった。サービスカウンターではそれを受け取って、各店でデータ入力し、そのデータを本部が収集し、集計して発注していた。手間もかかるし入力ミスも発生する。

 ご予約アプリならば、お客さまはいつでも注文でき、我々もその注文がそのまま外注データに飛んでいくのでミスが起きない。もともとはイベント時の作業削減のために作ったが、せっかくいい仕組みを作ったので、今は工夫して店頭にはない商品も予約できるようにした。店頭にはないが予約で事前に数量が把握できるのでロスも発生しない。

 2つ目が「自社の強みを生かしたEC」で、現在、楽天市場やYahoo!だけに出店している。10年以上前から始めているが、実際には商品部が主体となって何を売るか、売価はいくらにするかを決めていた。EC側は出荷作業や、お客さま対応、オペレーションを担っていた。しかしそれではベイシアとして一つにつながらず、EC戦略はバラバラとなってしまう。そこでEC戦略をもう一回組み立て直すことにし、23年3月には外部にEC専用の倉庫も借りた。ECの仕組みを再構築した結果、3月だけで比較すると部門によっては数百%くらいの売上増になった。取引先もこのベイシアのEC施策に注目し始めていて、「EC専用品を作りましょう」という提案も出てきた。ECを伸ばすためプロ人材の採用も拡大している。

ネットスーパーはロイヤルカスタマーへのサービス追加

 3つ目が「SaaS型のネットスーパー」。ベイシアは「楽天全国スーパー」というプラットフォームに日本で初めて出店した。2020年12月に、ベイシアのアプリがローンチした。これでRFM分析ができるようになった。ベイシアは大きなお店なので、1回の来店でまとめ買いするお客さまが多い。それがデータとして実際に見えてきて、客単価は高いが来店頻度については課題があることがわかった。お客さまは、少量の買物ならば他社スーパーやコンビニに行ったりして済ませてしまう。ベイシアのファンを逃さないために、そこは私たちが取り込んでいけばよい、というのがネットスーパーを始めた理由だ。

 つまりベイシアのネットスーパーは、ロイヤルカスタマーへのサービスの追加だと考えている。ここはぶれさせない。もちろん今までベイシアで買っていなかったお客さまが使い始めているというデータが出てきてはいるが、そこに目を向けるよりは、もともとベイシアをご利用いただいているお客さまにサービスを追加することを中心に据えている。

 ベイシアのネットスーパーが出店する「楽天全国スーパー」は、楽天IDがあれば買物ができるが、ネットスーパーの利用に際しては、ベイシアアプリIDの入力もお願いしている。1つのIDで1人のお客さまを管理したいからだ。リアル店舗で買ったものとネットスーパーで買ったものもIDが違っていれば別人の買物に見えてしまう。目的がロイヤルカスタマーへのサービスの追加であり、リアル店舗でもたくさん買物をしていただいているので、ネットスーパーの買物も必ず一致して見えるかたちをつくりたい。おそらくベイシアだけが楽天全国スーパーの中で自社のIDの入力までお願いしている。

 ベイシアアプリIDまで入力していただこうとすると煩雑さも出てくる。それが面倒ということで会員にならずドロップしてしまうお客さまもいることは承知している。ただそれでも1つのIDで管理したいと考えている。オンライン/オフライン両方の購買データの紐づけができると、お客さまがどういう人なのか、どういう嗜好性のある人なのか見えてくる。売場はどうしてもマスのプロモーションが中心だが、One to Oneまで行かなくてもOne to Segmentでクーポンを出してみるなど、何かご案内をしていくということができるようになるので、ベイシアアプリIDを紐づけることは絶対に必要だと考えている。

 オンライン/オフラインの両方を合わせたLTVを向上させないと、ネットスーパーの本当の価値はないと思っている。リアル店舗とネットスーパーでの買物の合計金額が上がっていかないといけない。つまり、お客さまを1つのIDで管理できるようにして、オンライン/オフラインの両方の買物を足し算した数字を把握した上で、最適な施策を展開することが、お客さまとの関係性をより深めることにつながると考えている。

※このレポートは203年6月15日に配信した「DCSオンラインカンファレンス」の講演内容をダイヤモンド・リテイルメディア流通マーケティング局がまとめたものです。

記事執筆者

ダイヤモンド・リテイルメディア 流通マーケティング局 / 株式会社ダイヤモンド・リテイルメディア

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