デジタル先進国・中国の意外な課題、高齢者のネット利用を促す打ち手

小野 貴之 (ダイヤモンド・チェーンストアオンライン 副編集長)
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数々の先進的なデジタルサービスが開発されるなど、「デジタル先進国」のイメージが強い中国だが、インターネット利用の浸透率は先進諸国と比べると低い。その原因とされている高齢者の低いインターネット利用率を引き上げるため、中国政府はさまざまな施策を打ち出している。
取材協力=高島勝秀(三井物産戦略研究所)

意外と低い、中国のインターネット利用率

 中国のインターネット利用者数(最低でも月に1回、インターネットにアクセスする人数)は、2020年末時点で対前年比9.0%増の約9億人で、18歳以上の人口全体に占める浸透率は71.0%と、日本や米国の9割弱と比べて低位にとどまっている。

 海外流通に詳しい三井物産戦略研究所の高島勝秀氏は、その主因として「高齢層にインターネットの利用が普及していないこと」を挙げる。同社がまとめた米国・中国・日本の年齢層別インターネット利用浸透率(図表①)のデータを見てみると、20年はコロナ禍に伴う巣ごもり需要、農村部でのEC利用拡大の影響により、65歳以上のネット利用者も同38.9%増と伸長しているものの、浸透率は41.8%と若年層と比較しても低く、米国や日本の高齢層と比べても、水準の低さは顕著である。

図表①年齢層別インターネット利用浸透率(中国、米国、日本) ※出所:中国は米eMarketer、米国はPew Research Center、日本は総務省のデータを基に、三井物産戦略研究所作成

 そうした状況下、中国では、ネットを利用できない層が大きな不利益を被らないような措置が取られている。たとえば、中国のデジタル化の象徴の一つでもあるキャッシュレス決済について、金融当局は、ネットを利用していない層に配慮し、小売業者に現金決済を受け付けることを義務付けている。同様の措置は、米国の一部の自治体でも取られている。

 中国では、ネットを通じた個々人の健康状態や移動履歴の把握、そしてそれに基づく情報提供や行動制限が、新型コロナウイルスの感染を封じ込めることに大きく寄与したという実績がある。こうした背景もあってか、中国ではより前向きに、高齢層にもネットの利用を促す政策が実施されている。

 「たとえば中国の一部の公共施設では、コロナ対策として、健康状態を示すQRコードの提示を要求しており、提示がない場合はアクセスを制限している。こうした施策も、ネット利用を動機付けるための取り組みの一環と言えよう」(高島氏)。

高齢者のネット利用を促す、中国政府のある施策

 さらに高齢層へのネット利用浸透を加速させるため、中国政府は高齢者にも使いやすいデバイスおよびアプリケーションの整備にも力を入れている。

 情報産業を監督する「工業和信息化部」は20年11月、アプリメーカーやサービスプロバイダーなどに対し、操作方法や画面表示がわかりやすいシンプルなデザインへの変更、インターフェースの改善、高齢者向けバージョンの開発などにより、高齢者でもサービスを利用しやすくするように指示を出した(図表②)。

 対象はSNSやEC、動画配信、地図など43のアプリと115のサイトで、企業主導による生活サービスの使いやすさ向上を介して、高齢者のネット利用を促進するのがねらいと見られる。

 三井物産戦略研究所の高島氏は、「こうした施策が奏功して、普及が遅れている高齢者のネット利用を促進できれば、中国は、社会全体に先端的なデジタルサービスを行き渡らせ、名実ともに『デジタル先進国』の評価を固めることになるだろう」と話す。

記事執筆者

小野 貴之 / ダイヤモンド・チェーンストアオンライン 副編集長

静岡県榛原郡吉田町出身。インターネット広告の営業、建設・土木系の業界紙記者などを経て、2016年1月にダイヤモンド・リテイルメディア(旧ダイヤモンド・フリードマン社)入社。「ダイヤモンド・チェーンストア」編集部に所属し、小売企業全般を取材。とくに興味がある分野は、EC、ネットスーパー、M&A、決算分析、ペイメント、SDGsなど。趣味は飲酒とSF小説、カメラ

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