脅威の損益分岐点売上高!フード&ドラッグが塗り替える、東海スーパーマーケット勢力図

2023/08/24 05:55
中井 彰人 (nakaja lab代表取締役/流通アナリスト)
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脅威の損益分岐点、ゲンキー

 他方、北陸から東海地方に進出している中部勢、Genky DrugStoresとクスリのアオキホールディングスも負けじとシェアを拡大しており、中小以下のスーパーマーケットがそのあおりを食っている、といってもいいかもしれない。これからフード&ドラッグの陣取り合戦は、さらに激化することが予想され、ローカルスーパーは防戦を強いられることになるだろう。

 その中でも、独特の戦略で大いに注目されているのがGenky DrugStoresの「ゲンキー」だ。ゲンキーの店舗はドラッグストアというよりも「薬粧も売っているディスカウントストア」に近い。フード&ドラッグは一般的に管理の難しい生鮮品には手を出さず、グロサリー、菓子、飲料、酒類などを多く品揃えする。もちろん、生鮮食品を取り扱うチェーンもあるが、多くは生鮮小売業者との共同出店(コンセッショナリー)であるのが一般的である。

 しかし、このゲンキーという会社はスーパーマーケット顔負けの生鮮・総菜の加工センターを持ち、自社内でサプライチェーンを構築したうえで各店舗に供給する体制を整備している。そして、そうしたインフラをベースに売場面積1000㎡弱という、フード&ドラッグとしては小さめの店舗を大量に出店し、成長を加速させている。イメージだけで言うなら、首都圏に数多く展開しているセンター供給型小型スーパー「まいばすけっと」の地方ロードサイド用大型版といった感じだろうか。

 Genky DrugStoresは、センター供給によって効率を上げ、食品を低価格販売し、薬粧という粗利益率の高い商材をついで買いさせることで、損益分岐点の低い店を実現する、というモデルとなっている(図表)

Genky DrugStoresのIR資料より筆者作成(左軸:売上高、右軸:営業利益、単位:億円)

 Genky DrugStoresの「固定費=販管費」、「変動費率=粗利益率(売上原価率の逆数)」としてざっくり、1店当たりの損益分岐点売上高を概算すると3.38億円になる。スーパーの場合、地元のヤマナカ(愛知県)で同じ試算をすると13.8億円ほどになる。同じフード&ドラッグのライバルである、クスリのアオキホールディングスは3.59億円、コスモス薬品5.01億円というのもかなり損益分岐点としては低いが、その中でもGenky DrugStoresは最小の売上で生き残ることができる存在だということがわかる。小さい商圏でも出店でき、かつ売上が下がっても生き残れるという意味では、フード&ドラッグがスーパーマーケットにとっていかに嫌な相手かがよくわかるデータかもしれない。

 東海地方のスーパーマーケットは現在、イオン、PPIH、バローグループが熾烈な陣取り合戦を続ける中でフード&ドラッグも急拡大するなど、競争環境が急激に厳しくなっている。巣ごもり需要の剥落、値上がり局面での価格転嫁、人件費と電気代の高騰という三重苦に苦しむスーパーマーケットにとって、フード&ドラッグというエイリアンが周囲に増殖するというこの状況は、まさに踏んだり蹴ったり、と言っていい。

 ただでさえ、人口減少の進行により商圏マーケット規模は縮小の一途をたどっており、損益分岐点が高止まりしている企業にとっては、存続の危機ともいえる未来が待っている。前述の損益分岐点売上の簡易計算で、商圏における自社の相対的立ち位置を把握しておくことをおすすめする。

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記事執筆者

中井 彰人 / 株式会社nakaja lab nakaja lab代表取締役/流通アナリスト
みずほ銀行産業調査部シニアアナリスト(12年間)を経て、2016年より流通アナリストとして独立。 2018年3月、株式会社nakaja labを設立、代表取締役に就任、コンサル、執筆、講演等で活動中。 2020年9月Yahoo!ニュース公式コメンテーター就任(2022年よりオーサー兼任)。 2021年8月、技術評論社より著書「図解即戦力 小売業界」発刊。現在、DCSオンライン他、月刊連載4本、及び、マスコミへの知見提供を実施中。起業支援、地方創生支援もライフワークとしている。
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