百貨店アパレルの成長戦略!三陽商会VSオンワードHD 両社黒字化を徹底分析!
三陽商会の再建に疑問
さて、私が冒頭でキャッシュフローの話をしたのは理由がある。それは、現金の入り / ポジティブ・キャッシュフロー、現金の出 / ネガティブキャッシュフローについて詳しく解説をし、企業・事業の再生というのは正常収益状態(通常の状態での運転資本)を横引きし、ポジティブかネガティブかで、その再生が本物かどうかを判断するからだ。簡単に言えば、売上が減少傾向であれば、どれほど黒字でも、フリーキャッシュフロー(企業の貯金と思えば良い)が減っていく。やがて赤字になり、さらに売上が減り続ければいずれ倒産する。
ここで、両社の売上を見てみる。20年度がコロナ禍という特殊状況があり非常に分析がしにくいので、本来は5年の正常経営環境下でのCAGR (年度平均成長率)でみるのだが、ここは2社の比較ということで経営環境はほぼ同じであるため、1年分のデータで分析をすすめてゆく。まず、下の図を見ていただきたい。

計画差というのは企業分析にとって何の意味も無いことを知っておいていただきたい。なぜなら、事業計画というのは、「鉛筆を舐めながら」書いているからだ。だから分析は、必ずファクトベース(実績と論理的に導かれる数値)と、その傾向以外は信じてはいけない(よほど突拍子もないような大改革があれば別である)。それでは「計画」というのは我々にとってどんな意味があるのかといえば、それは株主との約束である。つまり、株価期待値の努力バーであるというレベルでとどめておけば良い。
さて、ここでみると、三陽商会の売上の伸張率が大きく、一見、三陽商会の「がんばり」
この場合、正しい分析というのは、
ここから自力での成長率は、両社ともに2%程度ということになりそうだ。
両社の財務諸表から見る分析
さて、まとめよう。まず、三陽商会についていえば:
- 黒字化に成功したものの30年も変わっていないビジネスモデルの改善を積み重ねているに止まり、抜本的な改革はまだ見えない。つまり、コロナ明けリベンジ消費、およびインバウンド需要による、百貨店のジャンプアップに乗せて一緒にジャンプをしただけに見える。もし百貨店が苦境に陥ればその道連れとなるため、リスク分散がなされていない
これに対して、オンワードHDは:
- 「デジタル流通企業」という明確なコンセプトを打ち出した。PLMを使って仕入先の数多くを巻き込んだプラットフォーマーとなり、バリューチェーン全体に「全体最適」の重要性を説いて回ったと聞く。
オンワードHDの改革は、僭越ながら私の「ブランドで競争する技術」に書いてあるセオリーそのもので、サステナブル(持続可能な)事業モデルを構築できたようにも見える。これは、ひとえに巨艦タイタニックを見事に旋回した保元道元社長の手腕であり、情報システム部の田中部長の力もあったといえるだろう。
私は、現在大学院に通い経営学を学び直して(リスキリング)いるが、ハーバードビジネススクールMBAのケースに新しいページが加えられるとよいなと思う。また、三陽商会は、私が大江伸治社長の前任である杉浦昌彦前社長と二人三脚で大胆なビジネスモデル改革を進めてきた企業だ。バーバリー問題がこれほど大きくならなければ、百貨店のデジタル決済は大きく変わり、三陽商会の一人勝ちは約束されたようなものだったように思う。それほど、内容がすばらしい戦略を役員みんなで作ったし、
以上が私の分析だ。「三陽商会 vs オンワードホールディングス」、あなたは、どのように見ましたか?
なお、本分析は100%私の視点であり投資などの企業価値算定に使うものとはレベルが違い、簡易的なものであることをおことわりしておく。投資はあくまでも自己責任でお願いしたい。
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プロフィール
河合 拓(経営コンサルタント)
ビジネスモデル改革、ブランド再生、DXなどから企業買収、
デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言
筆者へのコンタクト
https://takukawai.com/contact/
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