イオンを皮切りに賃上げの春が到来……改めて確認しておきたい「春闘」の中身

棚橋 慶次
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小売業界が賃上げに踏み切らざるを得ない事情

 なかでも、小売業界の慢性的な人手不足は深刻だ。厚生労働省の発表資料(令和4年12月)によると、全職種の有効求人倍率は1.31と需給がひっ迫しており、とくに販売職は、2.09と突出している。

 原因ははっきりしている。相対的に低い賃金水準だ。あるサイトによれば、上場企業の業種別平均年収は小売・外食が約500万円、一般的に低年収とされるサービス業と比較して50万円以上低い。

 人材を確保できなければ、店の営業日や営業時間、売場づくりにも支障が出ることが予想され、事業活動が制限されてしまう。経営陣の多くも問題は認識しており、今年は大手を中心に賃上げに踏み切る企業が増えそうだ。

イオングループの賃上げが火付け役に

 個別事例では、イオン(千葉県)グループによる賃上げが、メディアで大きく取り上げられた。なんといっても従業員数56万人(パートタイマーを含む)とその家族に恩恵がおよぶわけで、インパクトが大きい。

 イオンの賃上げ率はグループ内の所属組合によって異なるが、正社員で概ね5~6%、パートタイマーで7%台に達する。ちなみに主力労組であるイオンリテールワーカーズユニオンの正社員の賃上げ率は5.03%で、前年の1.75%より大幅アップ。今年は定昇だけでなく、ベアも2.34%含まれている。

 イオングループの労使合意の結果は、同グループも加盟する流通・外食系の産業別労組であるUAゼンセンの妥結にも好影響をおよぼしている。23年3月末時点で、正社員(フルタイム)組合員は415組合、短時間(パートタイム)組合は177組合、契約社員組合51組合が妥結し、113万人強の賃上げが決定した。

 賃上げは、単年度ではなくベースアップを毎年繰り返すことに意義がある。ただし持続可能な賃上げには、生産性向上が必須課題だ。

 日米の大手流通企業のコスト構造を比較すると、売上原価率は日米で拮抗しているが、販管費比率はウォルマート(Walmart)やターゲット(Target)といった海外大手に日本勢は水をあけられている。店舗オペレーションをはじめとした業務改善により、米小売並みの生産性を向上できるかが、好循環の賃上げサイクルを実現するカギを握っている。

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