計算式不要!アパレル の資金繰りを助けるOTBの使い方実践講座

河合 拓 (株式会社FRI & Company ltd..代表)
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なぜ、アパレルが売上至上主義から抜けられないのかリアルな実態

 前置きが長くなったが、このように、無理な計画に対して月別の投入量を制御するのが成熟経済下のOTBの役割である。多くのアパレルでは、このOTBがまともに機能していない。OTBの数式を覚える前に、MD業の中で登場する場面と、その必然性を理解してもらいたい。OTBというのは、実際に販売活動に入った時、(ユニクロ、西松屋チェーン、ワークマンなどをのぞき)計画を下回って売上が推移するのが一般的であるが、こうした巡航速度でクルージングをしているとき、仕入れの金額枠を締め、これ以上仕入れをしないよう仕入れを止めるための動態的仕入れ制御機能のことをいうのだ。だから、静態的仕入れ計画、つまり、たんなる数式を暗記しても業務に役立たないのである

  一例として、在庫過多で業績が悪化しているアパレルがあった。そこに私がExcelをつくり、売上が計画対比で未達の場合、仕入れた在庫を換金することを優先させるため、仕入れをロックする簡単なマクロ機能を搭載し、会社の仕入れ承認システムと連動させた。

  おどろくことに、多くのMDが私のところにやってきて、「河合さん、なんですか、このExcelは。へんなパスワードがかかって仕入ができないようになっていて、なにをやってもパスワードがはずれないんですよ」と怒鳴り込んできたのだ。このMDをはじめ、私は5回もMDについて講義を行い、「売上計画は仕入れと連動している」、「したがって、売上が未達の場合、売れない在庫が残り、その場合、新規の仕入れをせず売れ残った在庫を優先的に換金せよ」と説明したのだが、講義のときは「そんなことは分かっているよ」とうそぶいていたMDが、実際の現場でのオペレーションになると、過剰在庫は放っておき、新規仕入れをして売上を追いかけようとしているわけだ。しかも、パスワードをなんとかはずそうと全力で努力をしてまでも、である。

私がつくったOTB管理ファイル。売上実差と想定消化率から自動的に必要調達量を算出する仕組み。この仕組みで、残品率50%以上の会社が10%以下になった
私がつくったOTB管理ファイル。売上実差と想定消化率から自動的に必要調達量を算出する仕組み。この仕組みで、残品率50%以上の会社が10%以下になった

  これは、笑い話でもなんでもなく、人間というのは頭で分かっていても体はそのように動かない。だから、いくら「わかっているよ」という顔をしても、デスクにもどって仕事をすれば、今までと同じように過剰仕入れをして売上をつくろうとする。この企業はまともに在庫の評価をやっておらず、神風が吹いて利益がでたら溜まった在庫を適当な範囲で償却しPLを飾る。あるいは、催事(さいじ)といって、大きな会場を借り、溜まりにたまった在庫を叩き売る。それまで、細かく在庫評価減をしているので、在庫簿価は恐ろしく低くなっており半額以下で売っても利益がでるのだ。これは、決算操作ではないかと何度もいったのだが、会計士の先生がよいといっていると聞かない。これが、アパレル個別企業が余剰在庫を生み出す実態だ。

 

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記事執筆者

河合 拓 / 株式会社FRI & Company ltd.. 代表

株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)。The longreachgroup(投資ファンド)のマネジメントアドバイザを経て、最近はスタートアップ企業のIPO支援、DX戦略などアパレル産業以外に業務は拡大。会社のヴィジョンは小さな総合病院

著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「生き残るアパレル死ぬアパレル」「知らなきゃいけないアパレルの話」。メディア出演:「クローズアップ現代」「ABEMA TV」「海外向け衛星放送Bizbuzz Japan」「テレビ広島」「NHKニュース」。経済産業省有識者会議に出席し産業政策を提言。デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言

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