日本のアパレルではもはや流通改革は成し遂げられない絶望の理由
「アパレル悪徳3種の神器」とは
私は、こうした事実を理解した上で、PLM(Product Lifecycle Management)導入を4年前から提唱してきた。いびつなバリューチェーンを白日の元に晒し、寄生虫の様に群がっている既得権益を排除するためには局地戦では埒があかないからだ。コンサルという立場を利用し、直接経営者にこの実態を伝え、「シンプルなバリューチェーンを作ろう」と数多くのアパレルに呼び掛けた。
そして、
1)縫製仕様書
2)専用伝票
3)債券債務
のマニュアルで未だになされている、バリューチェーンを歪にしている「悪徳3種の神器」をデータ交換する約束を取り付け、商社をハブにしたデジタルSPAのコンセプトを作ったわけだ。あんなものは、机上の空論だという人もいるが、ほとんどあと一歩で実現というところまできたし、いくつかの商社はアパレルビジネスにおいて、「デジタルSPA」という言葉を使って、垂直統合をはじめている(成功するかしないかは別にして)。
しかし、見えない敵は思いもよらぬところに潜んでいた。詳しくは書けないが、鉄砲玉で後ろから撃たれるとはこのことかと思ったほどだ。「一体自分は何のために仕事をしているのか?」、そう思わざるを得なかった。
結果、私は、もう2度と日本のアパレル業界の最も闇の部分である流通領域には触らないことにした。結局、何十年も動かず、そして、米国で提唱されたCPFR (サプライチェーン全体が共同で計画し、共同で予測し、共同で商品を供給するSCMの9つの発展段階の最終形)は、日本では不可能。少なくとも、私の目の黒いうちは無理であるということだ。
この国は既得権益で溢れかえっており、大きな改革は不可能だ。大きな改革にはトレードオフがつきものだが、この国は「白と黒なら灰色をとる」ことで課題の先送りをするのが常套手段だ。しかし、灰色は白でもなければ黒でもない。
流通改革がなされなければ、工場と店舗の間の伝言ゲームはこれからも続き、中間流通である商社の寝技は続き、商品コストはユニクロとは比較にならないほど高くなり、サステナブルな世の中になっても余剰在庫は消えることはないだろう。
今回の論考は、ややネガティブだが、ダメなものはダメだと言わねば臭いものに蓋をするだけだ。私は自分ができないことを、あれこれ言う無責任な評論家ではないので、あえて敗北宣言として、ここに筆で認(したた)めた次第である。
早くも3刷!河合拓氏の新刊
「生き残るアパレル 死ぬアパレル」好評発売中!
アパレル、小売、企業再建に携わる人の新しい教科書!購入は下記リンクから。
プロフィール
河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)
ブランド再生、マーケティング戦略など実績多数。国内外のプライベートエクイティファンドに対しての投資アドバイザリ業務、事業評価(ビジネスデューディリジェンス)、事業提携交渉支援、M&A戦略、製品市場戦略など経験豊富。百貨店向けプライベートブランド開発では同社のPBを最高益につなげ、大手レストランチェーン、GMS再生などの実績も多数。東証一部上場企業の社外取締役(~2016年5月まで)
河合拓のアパレル改造論2021 の新着記事
-
2022/01/04
Z世代の衝撃#4 Z世代を追えば敗北必至!取るべきトーキョー・ショールーム・シティ戦略とは -
2021/12/28
Z世代の衝撃#3 既存アパレルが古着を売っても失敗する明確な理由とは -
2021/12/22
インフルエンサー・プラットフォーマー「Tokyo girls market」驚異の戦略とは -
2021/12/21
プラットフォーマー起因の歪な過剰生産が生み出す巨大ビジネス、SheinとShoichi -
2021/12/14
Z世代の衝撃#1 ライブコマースで「インフルエンサー・マーケティング」が失敗する衝撃的理由 -
2021/12/07
TOKYO BASEがZ世代から支持される理由と東京がショールーム都市になる衝撃
この連載の一覧はこちら [56記事]
ファーストリテイリング(ユニクロ)の記事ランキング
- 2024-09-27ユニクロが中間価格帯になったことに気づかない茹でガエル産業アパレルの悲劇_過去反響シリーズ
- 2024-01-02勝ち組はSPAではなく「無在庫型」へ 2024年のアパレル、5つの受け入れ難い真実とは
- 2024-10-16「亜熱帯化」でも売上を伸ばすユニクロ、伸び悩むアパレルとの違いとは
- 2023-08-28ユニクロと東レとのサステナブルな関係から生まれたリサイクルダウン
- 2023-12-26「低価格×デザイン」だけではない しまむら好調、もう1つの理由とは
- 2024-02-21ファストリ業績絶好調も…日本の大衆から乖離するユニクロはどこへ行く?
- 2021-11-16「ラルフローレン」と「ユニクロ」が同じである理由とZ世代に対する誤解が生む悲劇
- 2022-01-11ZARAとユニクロだけがなぜ余剰在庫を撲滅できるのか?本人達も気づいていないメカニズムとは
- 2022-05-03ユニクロ独走の秘密は販管費にあるのに、原価削減を繰り返すアパレルの実態とは
- 2024-09-10アパレルのいまを全解説!GU、しまむらとシーインを比較してはいけない理由
関連記事ランキング
- 2024-10-29ライザップ傘下の夢展望、Temu効果で株価高騰も拭えない「不安」とは
- 2024-10-15利益5000億円越え!世界で圧巻の強さのユニクロが中国で苦戦する理由とは
- 2024-10-22事業再生、「自ら課題解決する」現場に変えるための“生々しい”ノウハウとは
- 2024-09-27ユニクロが中間価格帯になったことに気づかない茹でガエル産業アパレルの悲劇_過去反響シリーズ
- 2024-10-08コンサルの使い方に社長の役割…企業改革でよくある失敗と成功の流儀とは
- 2023-11-01日本の卸売業150社ランキング2023を一挙公開!各社業績は軒並み好調
- 2024-09-17ゴールドウイン、脱ザ・ノース・フェイス依存めざす理由と新戦略の評価
- 2021-11-23ついに最終章!ユニクロのプレミアムブランド「+J」とは結局何だったのか?
- 2024-10-15食品卸の老舗「日本アクセス」がAI・DX領域に新進出。“卸”だからこそできるDX戦略とは
- 2024-01-02勝ち組はSPAではなく「無在庫型」へ 2024年のアパレル、5つの受け入れ難い真実とは
関連キーワードの記事を探す
ユニクロがZOZOに出店しない当然の理由と今後のECモールとの付き合い方
ライザップ傘下の夢展望、Temu効果で株価高騰も拭えない「不安」とは
事業再生、「自ら課題解決する」現場に変えるための“生々しい”ノウハウとは
「亜熱帯化」でも売上を伸ばすユニクロ、伸び悩むアパレルとの違いとは
ユニクロが中間価格帯になったことに気づかない茹でガエル産業アパレルの悲劇_過去反響シリーズ
ユニクロの新ライン、「ユニクロ:C」が天下統一ブランドとなる理由_過去反響シリーズ
ユニクロ、ZARA、しまむら、ワークマンを比較!在庫はどこに置くのが正解か?
ユニクロがZOZOに出店しない当然の理由と今後のECモールとの付き合い方
ライザップ傘下の夢展望、Temu効果で株価高騰も拭えない「不安」とは
事業再生、「自ら課題解決する」現場に変えるための“生々しい”ノウハウとは