高質と効率を同時に実現、経営改革を加速する=三越伊勢丹フードサービス 内田 貴之 社長
首都圏で食品スーパー(SM)「クイーンズ伊勢丹」を展開する、三越伊勢丹フードサービス(東京都)。同社は2011年、三越伊勢丹ホールディングス(東京都/大西洋社長)傘下のクイーンズ伊勢丹と二幸が合併して発足した。今年4月、同社社長に招聘されたのが内田貴之氏。自動車業界出身という異色のキャリアを持つ内田社長に、経営の舵取りについて聞いた。
計画重視のオペレーションを強化
──自動車業界から小売業界に転身されています。現在に至るまでのいきさつを教えてください。
内田貴之(うちだ・たかゆき)
1956年11月1日生まれ。名古屋大学工学部卒業。79年日産自動車入社。村山工場、生産技術部で新車の生産準備などを担当。86~88年米国コロンビア大学大学院に社命留学。91~96年英国日産製造会社に出向。2000年フォード(日本)自動車入社。03年ヤオコー入社。作業改善・業務改革を推進、生産性向上と収益改善に貢献。08年日本マクドナルド入社。サプライチェーンの全体改革を推進。13年4月三越伊勢丹フードサービス代表取締役社長に就任。
内田 長年、日産自動車で生産技術や新車準備、サプライチェーンの構築などに携わってきました。ヤオコー(埼玉県)に入社したのが2003年です。川野幸夫社長(当時)から、「小売業は、製造業と比べて、科学的なオペレーションができていない。ぜひ、自動車製造の観点から、オペレーションを構築して欲しい」といった話を聞くうちに、チャレンジしてみようという気持ちになりました。小売業界に飛び込んだのは、一大決心でした。ヤオコーには5年ほどお世話になり、そのあと、12年まで日本マクドナルドでサプライチェーン全体の再構築プロジェクトにリーダーとして携わりました。
今年に入ってから、三越伊勢丹ホールディングスから、三越伊勢丹フードサービスの経営改革をやって欲しいという話をいただきました。3月に入社し、社長に就いたのが4月です。
──自動車業界での経験を、どのようにSM経営に生かす考えですか。
内田 高質と効率を同時に実現する方法として、自動車製造とSMに共通する2つのコンセプトがあります。ジャスト・イン・タイムとカイゼンです。
モノが集まるプロセスという観点からすると、細かな技術は異なりますが、概念的には自動車製造とSMは似ています。自動車は、2万点以上の部品がいろいろな過程を経て工場に集まってきます。SMでは、約1万SKUほどの商品が店舗に集まってきます。自動車は、ジャスト・イン・タイム方式で効率よく多品種少量の部品を集めるプロセスを確立しています。高質SMは、生鮮食品を中心に賞味期限の短い商品を小さいロットで速く回転させ、鮮度と品揃えを同時に実現する必要がありますから、ジャスト・イン・タイム方式が効果的です。
たとえば、SMには52週MD(商品政策)があります。どの商品も1年間の中で、最も売れる時期がありますから、そのタイミングにMDを合わせることが必要です。また、1週間の中でも売れる曜日がありますし、1日の中でも午後4~6時のピークなど最も売れる時間帯があります。これらのすべてのピークに、人、商品、売場という、われわれのリソース(経営資源)を一番よい状態でぶつける。出来たて、つくりたての商品を、お客さまが一番必要なタイミングで接客販売を通じて提供することで、最大の経済効果が発揮できるのです。
──オペレーションに、ジャスト・イン・タイム方式を取り入れられるということですか。
内田 お客さまが必要とする商品をタイムリーに提供できるオペレーションを基本に据えなくてはいけないと考えています。当社が取り組んでいる52週MDでは、まず、全体計画をつくり、商品計画、展開計画、月次の販売計画、週の展開計画などに落とし込んでいきます。それに基づいて店舗の発注計画を立てる。併せて、人の手当て、シフトも組まなくてはいけません。大きな売上を見込むときは、人も多く投入する必要があります。最も効果が大きく、効率のよい計画を作成していくことが大切です。まず計画ありきです。計画ができれば、検証もできますし、振り返りによる次のアクションも取れます。
EDLP(エブリデイ・ロープライス)の場合は、計画はさほど難しくありませんが、われわれはハイ&ローの計画が基本ですから、売れる商品がどんどん変わりますし、提案力も必要になります。提案するためには、何をいくつ仕入れるとか、この数量をつくるためには、これだけ人が必要になるといった「計画力」が不可欠です。