アフターコロナのアパレル業界はこうなる 世界一のユニクロに待ち受ける試練
プラットフォーマーとして「東のオンワード、西のワールド」の第2ラウンドが始まる
ユニクロ以外のアパレルに目を向けると、ニューノーマルの時代、日本の経済を牽引してきた商社繊維部門は静かに縮小するだろう。日本の衣料品の上代は異常である。海外にいけば、衣料品の価格はユニクロでも高価だ。これは、日本独自の「長く無駄な流通構造」に原因がある。
あえていえば、日本のお家芸である合繊繊維の非衣料領域の輸出は、途上国の成長と比例して残るだろうが、今までのようなOEMは、商社からスピンアウトした個人によりハンドリングされるか力のないアパレルが専門商社を使い、わずかにオペレーションを続けることになる。
SPAという言葉が誕生して久しいが、現実問題として「製造」と「小売」は、ユニクロを除いて、依然分離したままである。今後の総合商社の繊維部門はカーブアウト(本体からの切り離し)が進むだろうし、専門商社は規模を縮小しアパレルと垂直統合することになると思う(
商社生き残りの最後の戦略であった「デジタルSPA」も、スポーツ衣料とブランドビジネスに特化した伊藤忠商事などを除き、商社からそのノウハウはアパレル企業へ移管されることになる。ワールドやオンワードが次世代のプラットフォーマーに近づくことになる。まさに東のオンワード、西のワールド第2ラウンドが始まるわけだ。
プラットフォームは2種類へ
こうしてできあがる「プラットフォーマー」には、二種類あって、一つは生産・調達管理業務、あるいはEC業務を、GMSや百貨店のPBに展開するということだ。GMSや百貨店は、過去、幾度もECや自主化を図ったがうまくいったためしがない。いずれ、楽天やアマゾンが空中戦は企業買収をしかけ、楽天貨幣、Amazon貨幣をつかった経済圏を構築すべく、地上戦に降りてくる。
もう一つのプラットフォームは、投資業務である。所詮自社には売るモノはないと割り切り、金融ビジネス、デベビジネスに移行する戦略だ。日本という国で果たして世界化できるようなアパレルビジネスがでてくるのかという疑問もある。むしろ、今のように小粒なアパレル企業が出ては消え、消えては出てくる泡のようなものと割り切り、例えは良くないが生まれたブランドを飽きられたら安楽死させる技術が第二のプラットフォームだ。
飽きっぽい消費者も、国民服となったユニクロは毎年のように買うが、それ以外は、毎年お気に入りのブランドは変化する。だから、日本ではサステイナブルな巨大アパレルは現れないという考え方だ。もし、その仮説が正しければ、いっそ、アパレル企業は金融・投資事業に軸足をうつし、いわゆるD2Cと呼ばれる(私は、この言葉が嫌いだが)小粒な企業のインキュベーションに徹するのも一案だ。
最も大きく変わるのがMD業務
デジタル技術によりMD業務も大きく変わる。同質化が叫ばれるアパレルビジネスで、しっかりと素材から開発し世界化と似た小粒なブランド群を統合しなければ、産業効率が悪いアパレルビジネスは苦戦する。
拙著「ブランドで競争する技術」(ダイヤモンド社 2012年)では、「出島理論」として、旧来型のビジネスと、新しいビジネスを併存させ、徐々に後者に移行する案を提唱しているが、どこまで本気でやりきろうとしているのかは不明だ。例えば、私は前稿でDigital MDという概念を提唱し、過去の趨勢から顧客無視で商品調達をし、センター倉庫からビッグデータを使って売りつける、という押し売りのような現在の業務フローが、余剰在庫を生み出しアパレル企業の収益化を阻害していることを説明した。大量生産、大量消費を前提としたビジネスモデルが背景にあることを理解してほしい。
これに対し、Digital MDとは、商品計画という概念をなくし、ビッグデータから個人の購買動向をAIなどによって解析し、膨大な個人の購買動向から商品計画を予測するという、デジタル製販統合商品計画である。顧客データと商品データは有機的に結びつき、個客の動きから商品調達の動きを解析すべきなのだ。あまりに変数が多い将来予想を行うより、もっと現実解に目を向けるべきである。
ユニクロを仮想敵と想定し、同社との競争戦略を語ってきた私だが、もはやユニクロに勝てるアパレル企業は日本には存在しない。したがって、私の提案は「勝ちの定義」を変え、売上の大きさが勝敗を決めるという過去の価値観から脱却し、ナンバー1でなく、ある特定のビジネスでオンリー1を実現する、という大胆な方向転換である。
そこでは、「売上」という過去の計測手法では勝敗は決まらない。その代わり、例えば在庫破棄がない、二次流通と受注生産を組み合わせ、環境にやさしい、あるいは、わずかに残された工場に出資をし、日本製を打ち出すなど、独自の指標をもって高い利益率でオンリー1となるなどである。そのためには、私が提唱するデジタル技術を活用したZARA型 MDを導入すべきだ。
また、思い切ったアパレルは、M&A (企業買収) によって、
その結果、皮肉なことだが、産業全体の過剰生産の適正化が起きることになるだろう。幾度かのべたように、多くのアパレルは財務的に相当弱っており、また、バブル時代から君臨していた経営者達も次々と去って行った。カリスマ経営の温床といわれたアパレル企業は、この高い株高の時代においても、一部の企業を除いて割安である。当然ながら、こうした状況も、企業買収を加速させることになり、企業の統合・再編が起きることになる。本来は、企業の戦略主体で解決すべき業界課題が、「神の見えざる手」によって資本主義の誘う場所に追いやられるわけだ。
早くも3刷決定!河合拓氏の新刊
「生き残るアパレル 死ぬアパレル」好評発売中!
アパレル、小売、企業再建に携わる人の新しい教科書!購入は下記リンクから。
河合拓のアパレル改造論2021 の新着記事
-
2022/01/04
Z世代の衝撃#4 Z世代を追えば敗北必至!取るべきトーキョー・ショールーム・シティ戦略とは -
2021/12/28
Z世代の衝撃#3 既存アパレルが古着を売っても失敗する明確な理由とは -
2021/12/22
インフルエンサー・プラットフォーマー「Tokyo girls market」驚異の戦略とは -
2021/12/21
プラットフォーマー起因の歪な過剰生産が生み出す巨大ビジネス、SheinとShoichi -
2021/12/14
Z世代の衝撃#1 ライブコマースで「インフルエンサー・マーケティング」が失敗する衝撃的理由 -
2021/12/07
TOKYO BASEがZ世代から支持される理由と東京がショールーム都市になる衝撃
この連載の一覧はこちら [56記事]
ファーストリテイリング(ユニクロ)の記事ランキング
- 2024-11-13値上げしたのにアパレル業界が利益に結び付かない2つの理由
- 2024-11-07同じ低価格なのに…GUがしまむらやワークマンと「競合」しない決定的な理由_過去反響シリーズ
- 2024-01-02勝ち組はSPAではなく「無在庫型」へ 2024年のアパレル、5つの受け入れ難い真実とは
- 2023-08-28ユニクロと東レとのサステナブルな関係から生まれたリサイクルダウン
- 2024-09-27ユニクロが中間価格帯になったことに気づかない茹でガエル産業アパレルの悲劇_過去反響シリーズ
- 2021-05-04大丸、三越伊勢丹…誰も語れない百貨店分析 政府の施策が百貨店を殺す「本質的理由」
- 2024-09-03アローズにビームス…セレクトショップの未来とめざすべき新ビジネスとは
- 2022-05-03ユニクロ独走の秘密は販管費にあるのに、原価削減を繰り返すアパレルの実態とは
- 2024-02-21ファストリ業績絶好調も…日本の大衆から乖離するユニクロはどこへ行く?
- 2024-08-20売上100億円の超高収益アパレルが増殖の理由とユニクロとの共通点
関連記事ランキング
- 2024-10-29ライザップ傘下の夢展望、Temu効果で株価高騰も拭えない「不安」とは
- 2024-11-05ユニクロがZOZOに出店しない当然の理由と今後のECモールとの付き合い方
- 2024-11-12アパレルは「個人売買」「古着」が、今後驚くほど拡大する理由
- 2024-11-19ユニクロ、開始から7年で明らかになった有明プロジェクトのいまとすごい成果
- 2024-11-13値上げしたのにアパレル業界が利益に結び付かない2つの理由
- 2024-10-22事業再生、「自ら課題解決する」現場に変えるための“生々しい”ノウハウとは
- 2024-11-07同じ低価格なのに…GUがしまむらやワークマンと「競合」しない決定的な理由_過去反響シリーズ
- 2024-09-17ゴールドウイン、脱ザ・ノース・フェイス依存めざす理由と新戦略の評価
- 2021-11-23ついに最終章!ユニクロのプレミアムブランド「+J」とは結局何だったのか?
- 2023-08-08EC時代にスクロールとベルーナだけ好調 生き残るカタログ通販、死ぬカタログ通販
関連キーワードの記事を探す
ファストリが3兆円突破!24年8月期決算で語られた今後の成長戦略
「亜熱帯化」でも売上を伸ばすユニクロ、伸び悩むアパレルとの違いとは
ユニクロが中間価格帯になったことに気づかない茹でガエル産業アパレルの悲劇_過去反響シリーズ