ZOZO創業者、前澤友作氏が手金80億円をアパレル企業に投資した理由
変われない社員は過去を見、変化する社員は未来を見る
改革途上で、頑固で自分の考えを絶対に曲げない社員や管理職もいる。そんな彼らの口癖は「実感が沸かない」と「腹落ちしない」だ。これらの言葉の共通点は、「腹落ち」というわかったようで、わからない基準で物事の正誤を決めようとする態度である。「実感」や「腹落ち」が、如何に企業を危機に追い込むかを説明しよう。
彼らの「実感」や「腹落ち」とは「過去の経験」であるということだ。過去に経験すれば「実感」があるのは当たり前である。しかし、彼らが言う「実感」や「腹落ち」を繰り返せば時計は止まったままだ。世の中はこれだけ早く変わっているのに、未だに何十年も前のやり方を変えずにいるのは、この「実感」と「腹落ち」に拘っているからだ。加えていうなら、今自分がやっている仕事を大きく変えられてはたまらない、という抵抗心である。社員のほとんどがこう考える組織は、業績がどんどん悪化する。これが、企業が変われない構造である。
また、彼らに共通しているのは、リスクのあることをやるときは、必ず「先行事例」を求めることだ。そうなると、みなが「ユニクロ右ならえ」となる。ユニクロはベーシックな定番衣料をハイコスト、ロングタームで売り切るビジネスであり、例えばファッション企業は、ローコスト、ショートタームで売り切り、売れ残りを換金するビジネスだ。これらは、似て非なるもので、ユニクロの真似をすれば良いなどというのは、全くの非合理的な考え方である。ファッションビジネスは、ファッションビジネスの戦略、オペレーション、ビジネスモデルを考えるべきなのだ。
これに対し、ビジョナリーな人間と話すと、彼らの「実感」は、頭の中にある「未来図」である。例え、過去経験したことがなくとも、他の業界での先行事例がある、あるいは、今世の中になくとも論理的に正しいものは、彼らの「実感値」として頭の中に高い解像度をもってくっきりと戦略絵図が映し出されている。過去の否定とは、アナロジカルシンキング(他の成功事例を自分の業界でも使えるはずだと考える思考法)とロジカルシンキングの二つが必要なのである。変われない社員は「過去の実感」を感じ、変化する社員は「未来の実感」を感じるわけだ。
日本のアパレル業界で、ユニクロを展開するファーストリテイリングが一人勝ちし、その他のアパレル企業が「ユニクロに右ならえ」となっているのは、そういう背景があるからではないか。アパレル業界は「構造不況だ」といわれるが、もし、「構造的に」不況なら、なぜ同じアパレル企業であるファーストリテイリングが時価総額で世界一位の座を射程距離に入れられるまで成長し、その他のアパレルが不況に陥っているのか説明ができない。
次回はいよいよ事業再生手法の最終回。どのように現場とコミュニケーションをとり、現場の士気を高め、結果を出していくのか。またその過程で、その企業の将来を背負って立つ人材が、生まれるのである。
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プロフィール
河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)
ブランド再生、マーケティング戦略など実績多数。国内外のプライベートエクイティファンドに対しての投資アドバイザリ業務、事業評価(ビジネスデューディリジェンス)、事業提携交渉支援、M&A戦略、製品市場戦略など経験豊富。百貨店向けプライベートブランド開発では同社のPBを最高益につなげ、大手レストランチェーン、GMS再生などの実績も多数。東証一部上場企業の社外取締役(~2016年5月まで)