小売の出店相次ぐメタバース、アパレル企業の救世主か一過性のブームか?
メタバース内アパレル店舗の致命的な課題とポテンシャルとは
さて、これらを踏まえ、いよいよメタバース内の小売店舗の話をしたい。某百貨店はスマートフォン向け仮想都市空間プラットフォーム内に仮想店舗を営業している。
だが、私の探し方が悪いのか、UIのせいか、そのメタバース内の物販サイトにたどり着くまで、一苦労だった。
さてその仮想店舗は、iPhoneのアプリをダウンロードし、スマホ上に仮想空間を展開し、そこでアバターとなった自分が店内を歩いてお買い物をするというものだ。簡単にいえばゲームのドラクエの感覚だ。私個人の感想としては、思い通りに動かないことにもどかしさを感じるし、接客もウエブでアピールしているレベルにはほど遠いと感じた。
商品陳列も何が置いてあるのかわかりにくいし、さっと(アバターが)手に取ったレディース用のワンピースをみたら一着5万円だ。実際に仮想空間で商品を(アバターが)試着できて(自分自身が)買えるというのは確かに面白いとは思うが、私ならば車でさっと六本木ヒルズにでかけ、セレクトショップでお買いものをするだろう。
この技術は、いまマネタイズするには時期尚早であろう。仮想空間というよりも「漫画のような空間」で、自分とは異なるアバターに似合う服を、自分が本当に買うのだろうか?
ただ、私は、こうした未来志向のトライアルに異を唱えるよりも、応援する立場を取っている。今は、話題性だけで、しかも、誰もが手探り状態でマネタイズの方法を模索している。それでも、少なくともコンバージョンに至る導線仮説ぐらいは持ってから立ち上げてはどうかと思う。今はトライアルと言いたいのかもしれないが、消費者はそうは思わないのだ。「ただの遊びか」と思われてしまえば、二度と戻ってこない。消費者とはそういうものだ。
以上のようにメタバース内での仮想アパレル店舗は、今のままでは、数年ももたず消え去る運命にあると思う。とくに百貨店に関しては、こうした技術を使っても、世界的に見ても高額な販売価格、供給業者との委託消化取引、二重レジの問題など、百貨店の本質的問題解決になっていない。
仮に成功した場合も、それをコスト構造が違うショッピングセンターやZOZOなどのプラットフォーマーが参入してきたらどうなるだろうか。百貨店である必然性はあるのか、参入障壁はどうのだろうか。「メタバースで服は売れる」となれば、アパレル業界は一気に参入するだろう。百貨店の本質的問題を解決せずに技術に頼っても、結局、同列競争となれば、コスト構造が競争を左右することになる。
私は、こうした新しい技術がでるときだからこそ、Friction free、キャズムなど、経営の古典を振り返り、消費者にとって、どんな利便性が高まり、競合(ユニクロや外資SPA)に対し、どのような差別化ができ、また、それが、先日紹介したような参入障壁をどう構築するのか、という戦略立案の基本に立ち帰るべきだと思うが、いかがだろうか。
プロフィール
河合 拓(経営コンサルタント)
ビジネスモデル改革、ブランド再生、DXなどから企業買収、
デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言
筆者へのコンタクト
https://takukawai.com/contact/
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