小売の出店相次ぐメタバース、アパレル企業の救世主か一過性のブームか?

河合 拓
Pocket

メタバース、VRはソフトウエア勝負
何ができるかにかかっている

Thinkhubstudio/istock
Thinkhubstudio/istock

これに対して、メタバースは確かに映画館と遜色ない程度のリアリティはもっているが、まだまだゲームの世界を抜け出していない。まだ小売ビジネスがメタバースの世界の中で広がらない「致命的な論点」は、自分と全く違うアバターが登場し、自分の顔や体型と違う人間が着たコーディネートを体験したところで、なぜその商品を買おうと思うのかという疑問である。

メタバースというのは、冒頭に書いたとおり、全く違う異次元の空間の中に、自分であって自分でない人間が「没入」する。

だが、メタバースについて私は、魔法の杖のように世の中にAIが広まった時と同じ既視感を感じている。メタバース空間で仮想の土地売買が盛況になりNFT (デジタルコンテンツを唯一無二にして複製できなくする技術、本物である証明などに使う)を使ったオークションで、有名人が最初にツイートしたメモが何千万円で売れたといった「SFチック」な話がばかりが横行し、我々の日常のお買い物と関係ない話だからだ。

また、私自身、VRゴーグル(仮想現実を体験できるメガネのようなもの)を使っているのだが、使っていて重大な点に気が付いた。
VRゴーグルはいくつかのメーカーがバラバラに製品をだしており、私は、有名だったからという単純な理由で、オキュラス・クエストを購入した。だが、SONYや韓国製のものもある。それぞれのVRゴーグルで使えるアプリが違うのである。

私は、自分が住んでいる渋谷を闊歩したかったのだが、オキュラス・クエストにはそのようなアプリはなかった。
つまり、VRゴーグルのみならず、VRの世界は、ハードウェアではなく、ソフトウエアの勝負になるということだ。なぜ、マイクロソフトが8兆円も出して、ゲーム会社のアクティビジョンを買収したのか、その理由がはっきりわかるというものである。

オキュラス・クエストに話を戻せば、確かにジェラシックワールドなどは、一瞬身震いするぐらい恐竜がリアルに襲いかかってくるような感覚に陥るし、米国の有名な歌手のライブ中継を視聴すれば、ノリノリになることができる。だが、身もふたもない話かもしれないが、私はそれほどアメリカの音楽を聴く習慣はないし、同じ恐竜の映像も2回見れば飽きる。

このほか、発展途上の技術だと思うが、企業で使う色々なソフトウエアを統合し、アバターとなって会議室で議論をしたり(社員が全員ゴーグルをもっていることが必要)、データを魔法のように空間に映してプレゼンテーションをしたり、ビジネスオフィスを立ち上げるアプリもあった。今、オフィスを探している私にしてみれば、これは、将来、最も早いスピードで広がり働き方の概念を変える力があるなと感じた。

私は、自身が講師を務める「河合塾」の生徒に、不動産投資は港区にしろといってきたが、それも怪しいかも知れないと思うようになった。まず、このゴーグルが普通のメガネになるだろう。そして、きっと、「オフィス」も要らなくなるだろうし、通勤という概念もなくなるかもしれない。このビジネス分野は、オキュラス・クエスト上では小さいが、Microsoftはこの分野を狙い、同社のTEAMSと融合させ、急拡大をめざすと思う。私にはハッキリ見える。

1 2 3 4

関連記事ランキング

関連キーワードの記事を探す

© 2024 by Diamond Retail Media

興味のあるジャンルや業態を選択いただければ
DCSオンライントップページにおすすめの記事が表示されます。

ジャンル
業態