小売の出店相次ぐメタバース、アパレル企業の救世主か一過性のブームか?
キャズムに陥っているメタバース
米国に資産を移し、米国企業をメーンの投資先としている私だが、メタ・プラットフォームズだけには投資していない。メタベースには大いに将来性を感じるしゲーム業界では成立するものの、小売業界に革新を起こすには、時期尚早だと感じている。
マーケティングの世界には、こうした新しい技術が世に現れる場合、私のように真っ先に金をだして体験したいと考えるアーリーアダプターと呼ばれる層(構成比約13.5%)、アーリーマジョリティ(新しいもの好きだが、やや保守的で一般化するまで金を出さないマス市場、同約34%)の間には、キャズム(溝)とよばれる、「三途の川」が存在するというイノベータ理論というものがある。この「三途の川」をうまく乗り越えなければ、新しい製品は大衆化しない。我々戦略コンサルが最も頭を使うところだ。
ZOZOSUITSが広がらない理由とAR活用の代替案
ここで補足しておきたいこととして、あらゆる新規サービスが「キャズム」を超えられないがゆえに大衆化しないわけではないということだ。
その典型例が、サイズ計測スーツのZOZOSUITS(ゾゾスーツ)である。普及が難しい理由は、消費者にPain (苦痛、障害)を与えるからだ。消費者がお買い物をしようと考え、商品比較し、購買するまでの一連の流れである「Footprint(足跡)」のなかに、このサイズ計測というプロセスが存在しないのである。
それとは別個に、わざわざ計測スーツを着て30~1時間もかけて計測しなければならない。データ収集の基本は、「データをFootprint (足跡)から収集する」というものだ。この基本から外れた設計思想が前提になっているのである。小売の世界の常識である、フリクションフリー(お客にストレスを与えないこと)に反しているわけだ。
データ収集の基本は、生活の中に溶け込み、「消費者が活動のなかで自然に落とすトランザクションを自然な形で拾うことが原則である。
ここで普及可能な計測ツールとして提案したいことがある。あくまでも推測だが、AppleのLiDARスキャナーと画像分析を使えば論理的にサイズ計測は可能となる。LiDARスキャナーとはレーザー光を利用して離れた物体の距離や形状を計測できるものだ。
実際、Appleのスマホにはメジャー(計測)というアプリがデフォルトで入っている。Appleは様々な物体のサイズをLiDARスキャナーとAIによる画像検知の組み合わせで得られるサイズ計測技術のAPI(技術と技術をつなぐ約束ごと)を公開することで、例えばアパレル開発者にARから、自分の分身(アバターではなく、自分自身の姿)をスマホの中に登場させ、いろいろな洋服のコーディネートを楽しめる。
これであれば、「SサイズをMにしてみようかしら」とか、消費者が自然に洋服を選ぶプロセスに組み込まれ、そこに消費者の活動のFootprint (足跡)が残る。消費者にとってしてみれば、「欠品」という障害がなくなり、また、試着室に並んだり実際に服を脱いだりという面倒な作業もなくなる(Friction free)ことになるし、企業側からすれば消費者のサイズも自動的にFootprintとして収集できるわけだ。
河合拓のアパレル改造論2022 の新着記事
-
2023/01/24
「大ディスカウント時代が到来」 この意味が分からないアパレルの未来は悲観的な理由 -
2023/01/17
H&MやZARA等が原価下回る価格で取引を強要 SDGs時代にこんなことが起こる必然の理由 -
2023/01/10
ビッグデータを制する企業が勝利する理由と、M&Aできない企業が淘汰される事情 -
2022/12/27
2023年のアパレル大予測 外資による買収加速・DX失敗・中国企業に完敗、が起こる理由 -
2022/12/20
中国企業傘下の仏メゾン「ランバン」米国で上場 いまや中国企業に追いつけない理由 -
2022/12/13
過去のヒットからAIが予測し売れる服を自動生成!?アパレル業界の課題とこれからとは
この連載の一覧はこちら [55記事]
ファーストリテイリング(ユニクロ)の記事ランキング
- 2024-09-27ユニクロが中間価格帯になったことに気づかない茹でガエル産業アパレルの悲劇_過去反響シリーズ
- 2024-01-02勝ち組はSPAではなく「無在庫型」へ 2024年のアパレル、5つの受け入れ難い真実とは
- 2024-10-16「亜熱帯化」でも売上を伸ばすユニクロ、伸び悩むアパレルとの違いとは
- 2023-08-28ユニクロと東レとのサステナブルな関係から生まれたリサイクルダウン
- 2023-12-26「低価格×デザイン」だけではない しまむら好調、もう1つの理由とは
- 2024-02-21ファストリ業績絶好調も…日本の大衆から乖離するユニクロはどこへ行く?
- 2021-11-16「ラルフローレン」と「ユニクロ」が同じである理由とZ世代に対する誤解が生む悲劇
- 2022-01-11ZARAとユニクロだけがなぜ余剰在庫を撲滅できるのか?本人達も気づいていないメカニズムとは
- 2022-05-03ユニクロ独走の秘密は販管費にあるのに、原価削減を繰り返すアパレルの実態とは
- 2024-09-10アパレルのいまを全解説!GU、しまむらとシーインを比較してはいけない理由
関連記事ランキング
- 2024-10-29ライザップ傘下の夢展望、Temu効果で株価高騰も拭えない「不安」とは
- 2024-10-15利益5000億円越え!世界で圧巻の強さのユニクロが中国で苦戦する理由とは
- 2024-10-22事業再生、「自ら課題解決する」現場に変えるための“生々しい”ノウハウとは
- 2024-09-27ユニクロが中間価格帯になったことに気づかない茹でガエル産業アパレルの悲劇_過去反響シリーズ
- 2024-10-08コンサルの使い方に社長の役割…企業改革でよくある失敗と成功の流儀とは
- 2024-09-17ゴールドウイン、脱ザ・ノース・フェイス依存めざす理由と新戦略の評価
- 2021-11-23ついに最終章!ユニクロのプレミアムブランド「+J」とは結局何だったのか?
- 2024-01-02勝ち組はSPAではなく「無在庫型」へ 2024年のアパレル、5つの受け入れ難い真実とは
- 2024-05-07ユニクロ以外、日本のほとんどのアパレルが儲からなくなった理由
- 2024-10-16「亜熱帯化」でも売上を伸ばすユニクロ、伸び悩むアパレルとの違いとは
関連キーワードの記事を探す
ユニクロがZOZOに出店しない当然の理由と今後のECモールとの付き合い方
ライザップ傘下の夢展望、Temu効果で株価高騰も拭えない「不安」とは
事業再生、「自ら課題解決する」現場に変えるための“生々しい”ノウハウとは
「亜熱帯化」でも売上を伸ばすユニクロ、伸び悩むアパレルとの違いとは
ユニクロが中間価格帯になったことに気づかない茹でガエル産業アパレルの悲劇_過去反響シリーズ
ユニクロの新ライン、「ユニクロ:C」が天下統一ブランドとなる理由_過去反響シリーズ
ユニクロ、ZARA、しまむら、ワークマンを比較!在庫はどこに置くのが正解か?